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下川町のきょういく〜教育コーディネーターの仕事

下川町のきょういく〜教育コーディネーターの仕事

下川町の「2030年における下川町のありたい姿(下川版SDGs)」のビジョンのひとつとして、教育や子育てに関連する「子どもたちの笑顔と未来世代の幸せを育むまち」というビジョンがあります。このビジョンをさらに具現化するために下川町では子どもを育む地域の姿として「地域共育ビジョン」を掲げて、日々様々な取組みを進めています。今回は地域学校協働コーディネーターの本間莉恵さんにお話を伺いました。

下川町では森林資源を教材に認定こども園から高校まで15年通して学習していく「森林環境教育」をはじめ、町外からコーディネーターを招いて、下川町独自の「共育(きょういく)」を実践しています。コーディネーターとはどのような仕事なのだろうか?今回本間さんに日頃の取り組みについて詳しく話を聞いてきました。

ランドスケープデザインから教育へ

(編集部)大学でランドスケープデザインを学ばれていたとのことですが、なぜ畑違いの「教育」の道を目指すことになったのだろう?と少し不思議でした。でもなんかわかるような気もしていて。今日はその辺のお話からお伺いできればと思います。

(本間)はい。よろしくお願いします。

(編集部)ランドスケープデザインを志していた本間さんが、なぜ地域教育の道に進まれたのか。私なりに勝手に想像してみました。笑

例えば駅前に素敵な広場を作ったとします。機能的で美しいデザインだとしても、使う人が協調性を持って主体的に使わないと、その機能性や美しさは長続きしない。そのためには幼少期から協調性とか主体性などを育む必要があると考え、「都市」よりは「教育」をデザインすることに興味が移った。こんな仮説を立ててみたのですがいかがでしょうか?

(本間)なるほど。残念ながら今伺ったような考え方ではなかったです。笑

(編集部)あ、外れちゃいましたか。笑 

(本間)今、自分でもなぜ教育の道に進んだのかを思い出してみたのですが、パッと思い浮かんだシーンが2つあります。1つ目は、大学生の頃にランドスケープデザインの勉強の一環として、軽井沢にあるネイチャーセンターで1ヶ月ほどインターンとして働いていました。そこの利用者は富裕層のご家族が多く、ハイブランドの洋服を着た子供たちもたくさん来ていて、当時施設のスタッフの方から、次の日本を担うであろう高所得者の子供たちをおもてなしすることはとても意味があるんだよって言われたことがあって。

(編集部)確かにそういう考え方もありますよね。

(本間)自分が実際にランドスケープデザインの道に進み、もしもなにか教育的な部分に関わることになったとしても、影響力のある一部の対象ではなく、だれもがその自然、地域社会に対して責任ある一員だという意識で仕事にとりくみたいなと思いました。

(編集部)うんうん。

(本間)もう一つは、これも大学時代の話なのですが、当時地元の新潟でNPO活動に参加していたことがあって、そこで出会うおじいちゃんやおばあちゃん達の「暮らしの知恵」がとても素晴らしくて、もっと地元の子供達に伝えていきたいと思うようになりました。

そのような大学時代の経験から、地域の子供たちがその地域で暮らしそこで生きていくための知恵やスキルを持った人達と出会える機会作ってみたい。子供達の将来も、地域の将来も同時に育めるといいなと、大学時代によく考えていました。

(編集部)確かに子供達のためにそのような教育の「場」や「仕組み」があると良いですよね。

ちなみに下川町に来る前は、新潟でも学校と地域活動をつなぐコーディネーターとして活動して、教育支援NPO「みらいずworks」を立ち上げて7年間働いていたと思うのですが、そもそもなぜ下川町を活動拠点に選ばれたのですか?

(本間)知人の紹介がきかっかけで、下川を訪れました。ありたい姿(下川版SDGs)を定め、「子どもたちの笑顔と未来世代の幸せを育むまち」を創ろうとする行政の方も地域の方々もいるけれど、学校教育との連携はこれからというところでした。私の今まで、学校と地域をつなげてきた経験がお役に立てそうだとイメージが出来ました。先ほどもお話しした通り、地域と教育を、学校も家庭も保護者も一体になって繋げていくことをやりたかったので、下川町ならそれが叶うと感じたのが決断の理由です。


ビジョンを実現するために

(本間)下川町には「地域共育ビジョン」という教育に関する町の指針があります。


2030年における下川町のありたい姿(下川版のSDGs)


下川町地域共育ビジョン


(本間)私の仕事はこの地域共育ビジョンに基づいて様々な取り組みを実施することです。もう少し具体的に説明すると、地域共育ビジョンで描く子どもたちを育む環境を「学校教育」と「社会教育」の場面に落とし込んでいく作業です。


(編集部)ビジョンを落とし込むときに実際にはどのような取り組みをしているのですか?

(本間)図にするとこんなイメージになります。


(本間)下川町では、幼小中高を対象に「森林環境教育」を2009年から継続しています。私は、森林環境教育で行われる体験的な活動を、その時だけで終わるのではなく他の教科や総合的な学習の時間につなげて子どもたちの学びを深めるために、先生方やNPOの方々と一緒に、学びの内容やプロセスを考えるなどして関わります。

小6、中3、高3のタイミングには「総合的な学習の時間」での学びを踏まえ、町長らに、まちづくりの提案をする機会があるので、それに向けたゲストコーディネートや子どもたちの活動のサポートをしています。小学校では「クラブ活動」、中学校では「キャリア教育」、高校では「課題研究」などの学校の教育活動のサポートという視点から、学校と地域をつなげていきます。

「社会教育」に関しては、当初地域おこし協力隊としてやっていたこともあり、フットワーク良く自分があったら良いと思う取り組みを色々試してきました。具体的には以下のような取り組みをやっています。

おもいで写真館(中高生対象)





中3,高3の卒業生に向けて、町内のカメラマンが下川の好きな場所で撮影します。町民にも広く見ていただけるよう写真展を開催しています。


センパイ進路トーク(中高生対象)




中高生が進路を考えるきっかけとして、下川出身の専門・大学生や様々な職業人のお話を聞き、自分の将来について考える機会を設けています。


スキ活コンテスト(小中高生対象)




「私のスキなこと」をテーマに表現して応募、町民投票で大賞となると、スキ活をするための自分で選ぶプレゼントがもらえるコンテスト企画です。表現方法は自由。写真、動画、文章、工作なんでもOK !参加全員に町内店舗のスイーツ無料クーポンもプレゼントしています。


(編集部)これだけコンテンツが充実していると、子供たちも自主的に動き出しそうですし、そもそも学校が「楽しい場所」としてリブランディングされますよね。自分が子供だったら普通にめっちゃ楽しんでいるシーンが連想できました。笑

ちなみに本間さん自身は子供の頃、学校は好きでしたか?どんな子供だったんですか?

(本間)私は子供の頃から一度何かを始めると集中してやり続けるタイプで、部活動も頑張って根気よくやっていました。

(編集部)続けているうちに辛くなって、やめたくなったりしなかったですか?

(本間)辛いけど成長したいというか、もっと上のレベルに達したいという思いが勝っていたので、辛いと思うよりは「なんでみんなついてこないの?!」と思うタイプでした。笑

(編集部)典型的な優等生タイプですね。笑向上心がモチベーションになっていたんですね。

(本間)そうかもしれないです。もっと良くしたい!みたいな熱量は多い方かもしれません。自分よりも周囲に対して、もっとこうなったらいいのにとか、大人に対しても事あるごとに「なんで大人っていつもこうなの!?」と思っていました。学校では優等生だったとしても、先生とか大人を冷静に判断していたような気がするので、たぶんあまり先生から好かれるタイプではないですね。笑

(編集部)当時の感覚や感性は今のお仕事にも確実につながってますね。

(本間)子供の頃は学校が嫌いだったわけではなく、納得いかない部分というか、もっとこうだったら良いのになという感覚が常にあったので、先生とは違う立場ではありますが、子どもたちがやりたいと思っていることが実現できる環境を作りたいと思っていますし、それが学校教育の仕事を続けられているモチベーションになっていると思います。

教育コーディネーターとしての流儀

(編集部)日々、教育に関する新しいチャレンジを続けていると思うのですが、仕事を進める上で特に気をつけていることはありますか?

(本間)学校や先生方に対しては、一方的に何かをやってください!とお願いするだけではなく、学校として今必要なことや困っていることを想定しながら何をすべきかをお話しするようにしています。目指すべきゴールを共有し、その実現のために学校として必要であることをしっかりと伝えるようにしています。先生方と並走しながら子供たちのためにより良い環境を一緒に作って行きたいので、そのためにコミュニケーションはとても大切です。

(編集部)それは教育コーディネーターとしての流儀とも言えますかね?

(本間)その一つだと思います。先生方はお願いすると確実にやってくれるのですが、結局そこに「想い」がないと、例え何かコトが進んでも意味がないと思うのです。それぞれに託した「想い」や「意味」をしっかりと伝えることが重要です。しかしこれがまた難しくて、想いも様々なので、一人一人の思いを受け止めつつ、目指す方向はしっかり握りながら進めていくのがコーディネーターの役割としてとても重要だと考えています。

(編集部)子供達と向き合うときに何か気をつけていることはありますか?自分もそうでしたが、中学、高校時代は思春期真っ只中なので、なかなか大人の言うことに聞く耳を持たない手強い印象があります。笑

(本間)子供達の「やりたい事」をしっかり聞き取ることが一番大切だと思います。

例えば高校の「課題研究」という授業では、元々は大人が用意したテーマの中から課題を決めて取り組んでもらっていましたが、現在では「ほんとはみんな何やりたいの?」をしっかりと掘り下げて、そこから取り組む課題を決めています。

私たち大人が、子供たちの中に入っていき、何をやりたいのか?を理解した上でプロジェクを立ち上げる。一方的にこちらからアナウンスをしても子供達は賛同してくれません。何したいの?って尋ねても「えー、別に…」ってリアクションも多々ありますけどね。笑

その他、大人が楽しんでる姿をもっと見せられるといいかなと考えています。

(編集部)大人が楽しんでいる姿??

(本間)先ほど紹介した「スキ活コンテスト」では、大人も参加しようよ!って話が出ています。大人が夢中になっている姿を子供達が見ることで「なんか面白そう!」と思うきっかけになると思います。さらに子供達の興味と一致したら大人たちとの新しい繋がりも自然と生まれるような気がしています。

(編集部)確かに大人が楽しんでる姿を見ると、子供たちも自然と動きそうですよね。その発想はどのようなときに生まれたのですか?

(本間)小学校で、クラブ活動で何したい?って子供たちに尋ねたところ、そろそろテレビゲームに飽きてきたからボードゲームやりたい!と言ったので、早速クラブ活動の一環として、ボードゲームをいくつか用意したところ「こんなあるんだ〜!」と言って、面白がっていました。

町内のボードゲームをのお店を営んでいる方に協力していただいたのですが、「ゲーム好き」という共通項で大人と子供がつながっていたので、大人が一緒になって楽しむことはとても意味があるなと改めて感じていました。

(編集部)ただ情報として出すよりは、大人がやってみせることで「わかりやすい選択肢」になり子供たちも自発的に動き出しやすくなりますよね。

(本間)子供はまだまだ知らないことがたくさんあります。仕事でも趣味でも良いので、大人たちが生き生きとコミュニケーションするだけで、子供たちにとっては「へー!そんなことができるの?」と発見があると思います。

そういう「生の情報」って今の子供たちに伝わりやすいし、子供たちの好奇心をゆさぶりますよね。


幼小中高を繋ぐ学びの「場」と「仕組み」

(編集部)ちなみに、現在目指している目標ってありますか?

(本間)私の目標として幼小中高をつないだ学びの「場」と「仕組み」を作りたいと考えていて、それが叶えられるのが下川町だと思いここを活動のフィールドに選んだので、やはり子供たちの学びを繋げていくことが一番やりたいことです。

(編集部)その実現のために活かすべき下川町の強みって何ですか?

(本間)下川町は人口3千人規模の町ですが高校も維持できています。人口規模だけで考えると高校の存続が難しい現状だと思うのですが、下川町では入学数もキープできていて良い状況が続いています。これは強みだと思うので、改めてしっかりと幼小中高をつなげていきたいと思っています。

さらに下川町の高校は商業科なのですがこれもまた強みの一つになるのでは?と感じていて、今後はその具体的プランを検討できればと考えていました。
もちろん子供たちが全員商業に向き合うのではなく、下川町の教育の新しい「素材」になるのでは?という視点です。既成概念に捉われない視点で現状を見直すことで、これからの活動がより充実すると思います。

このような話を幼小中高の先生たちと話し合える場が増えるといいなと思います。

(編集部)そのために何か具体的に取り組んでいることはありますか?

(本間)昨年、幼小中高の先生と地域の人に参加していただいて、地域共育ミーティングをやりました。それぞれの立場からテーマを出してもらいざっくばらんに話し合う場です。例えば、PTA活動を活発化するにはどうしたら良いかな?とか、放課後の時間を有効活用する方法は?など先生や地域の方が一緒に話し合いました。

(編集部)出てくる課題や悩みは同じようなものもあるわけですよね?

(本間)それぞれの年代の悩みって一見バラバラな印象があるかもしれないですが、子供たちが外で遊ばなくなって体の機能が落ちていたり、自分で考えて発言できるようになるにはどうしたらいいだろう?など、実は意外と繋がっていることが多いです。

当日はいろんな話が共有され、とても有意義な取り組みだっと思うので今後も続けていきたいと思います。繰り返し実施することで、横のつながりが生まれて、何か困ったことがあったときに気軽に相談できる流れができたり、その流れで「今度勉強会やろうよ!」などの動きも生まれると良いなと思います。


本間さんにとっての共育(きょういく)とは?

(編集部)最後に一つ質問です。本間さんにとって「共育」って何ですか?

(本間)きょういくとは、下川町で言う「共」の「育」ですよね?だとすると、自分の成長とか、自分のやりたいことは自分の中だけで生まれるものじゃなくて、誰かと関わることでその関係性の中から生まれるものなので、その「場」を作ることと、関係性が築きやすくなるための「仕組み」を作ることが共育ではないかなと思います。

子供たちには、ひとりひとり自分らしく生きてほしいと願っています。下川町のような地方都市に住んでいると、選択肢が少ないとか、チャンスが無いと思いがちですが、そんなことを考える必要はないと思うし、誰でも自分らしく生きていけるんだよ!ってことを伝えていきたいと思っています。

もしもやりたいことがあれば周囲を気にせずもっと口に出した方が良いし、どんどん行動に移した方が良い。やればできるよ!ってことは、子供達にすごく伝えていきたいことでもあります。

(編集部)今日はありがとうございました!

北海道には食や観光だけではなく、毎日の暮らしの中にも自慢したい「魅力」がたくさんあります。今回は下川町独自の教育に関する取り組みについてたくさんの方に知っていただきたくシリーズで紹介しています。


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