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木彫師 伊澤修一さんインタビュー

木彫師 伊澤修一さんインタビュー

北海道東川町では、アイヌ民族をテーマにした映画「カムイのうた」を制作しています。MouLa HOKKAIDOでは、2023年秋の公開に先駆け、映画関係者やアイヌ文化に関わっている方々にお話を伺うプロジェクト「つながる、つづく、カムイの想い」を進行中。今回は上川町で木彫師として活躍されている伊澤修一さんに日頃の活動について詳しくお話を聞いてきました。

スポーツ万能な子供時代

編集部
本日はよろしくお願いします。何からお話を聞こうか迷ったのですが長きに渡り多方面でご活躍されている「伊澤修一」の原点を探ってみたくなりまして。笑
最初に伊澤さんの幼少期について簡単に教えていただけますと嬉しいです。

伊澤
自分で言うのもおこがましいですが、スポーツも勉強も万能な子供でした。笑 
何をするにも物覚えが良いタイプだったと思います。

編集部
子供の頃は何か特定のスポーツをやられていたのですか。

伊澤
走らせたら誰よりも速かったので陸上部から誘いを受けましたし、野球をやれば球も速いし打球も飛ぶので野球部からも誘われました。しかし子供の頃は、父が全国の催事を飛び回っていたり、両親共に忙しく働いていたので、食事の支度など身の回りのことは自分でやっていたこともあり部活ができる時間はありませんでした。

編集部
もしも何か一つのスポーツを極めていたら、伊澤さんならレコードホルダーになっていたかもしれませんね。そんな活発なスポーツ少年がいつ木彫の才能を開花させたのですか。


伊澤
親が木彫師だったので物心ついた頃には木彫は生活の一部でした。アイヌ民族にとって木彫の技術は基本的に「見て覚える」ものなので私も父が彫っている姿を見て覚えました。

編集部
お仕事として木彫と向き合い始めたのはいつ頃ですか。

伊澤
多分、17、18歳くらいの頃だったと思います。

編集部
先ほど、お父さんが催事で全国を回っていたとおっしゃっていましたが、実際にはどの辺まで行かれていたのですか。

伊澤
その当時はアイヌブームだったこともあり、熊の木彫は全国的に大人気でした。幼い頃は私も同行したことがあるのですが北海道から九州まで回っていたと思います。

作品づくりのこだわり

編集部
伊澤さんの作品づくりの「こだわり」を教えてください。

伊澤
生活用品など、日常で使う雑貨は誰でも作れるのですが、イナウなどの神具や、儀式で使うイクパスィなどの祭具は神聖なものなので、習った人から許可を得るまで作ることができません。私の場合は父に許可をもらう予定だったのですが、神具を作ってみたいと思った頃には、既に父は他界していたので結果的に許可をもらうことができませんでした。

編集部
では伊澤さんはイナウやイクパスィなどは今でも作っていないのですか。

伊澤
周囲の人たちからは「もう作っていいんじゃない」と声をかけてもらったり、自分でもそう思う反面なんとなく今でも作れないでいます。

編集部
木彫作品にはそのような分類があるのですね。こうやってお話を伺った後に改めてイナウやイクパスィを見てみると、今までと違った見え方になる気がします。他にも作品作りでこだわっていることはありますか。


伊澤
誰も作っていないものを作りたい。これは木彫を始めた頃から変わることのないこだわりです。父は、木彫熊の開祖といわれる「松井梅太郎」の最後の弟子だったので主に熊を彫っていましたが、私は他の人が作っていないペンダントやフクロウの置物を彫ってきました。今はフクロウの作品がメインです。熊は「山の神様」ですが、フクロウはさらにその上段に位置づく「全体の神様」。世界の中にもフクロウを神様としている地域が意外と多いので、熊より格は上かなと思いながら掘っています。笑

編集部
伊澤さんのフクロウの作品って、可愛い印象の作品が多いですよね。


伊澤
お客さんからも「可愛い!」と褒めていただけることが多いのですが、改めてそのように言われると少し気恥ずかしいですね。笑

編集部
木彫って人間性というか作家さんに内在するエネルギーが直接的に作品に反映されると思うので、伊澤さんの中にきっと「可愛らしさ」の要素があるのだと思います。

伊澤
確かに彫る人の人間性や、その日の気分までも如実に反映されます。私も心が波立っている時にはなんだか上手に彫れないものです。

編集部
フクロウを彫る際に工夫していることはありますか。

伊澤
使用する材料(木)は特に決めていないのですがエンジュが多いですね。木目や色調を生かしながら彫り出すようにしています。その他「目を黒く入れている」のも私の作風です。アイヌ民族は常に臨機応変に生きる民族なので、時代に合わせて木彫の姿も変えていくことも必要だと思います。元来、新しいアイデアを考えたり、前例にないことをやるのが好きなタイプなので、試行錯誤を重ねながら自分らしい作品作りに努めています。


守り続ける想い

伊澤
先ほどアイヌ民族は常に臨機応変に生きる民族とお伝えしましたが、もちろん大前提として「伝承すること」も大切にしています。

編集部
具体的にはどのような点に留意していますか。

伊澤
アイヌ民族に伝わる「すべての生きとし生けるものにカムイが宿っている」という教えはしっかり受け継いでいます。あと、父にダメだと言われたことは今でもやっていません。例えばチセ(家)を作る時には「木の向き」を守ります。「根と根、先と先をくっつけるな」とか「根元は下、先は上」と言われていますので、木の向きはしっかり確認してから使っています。言い伝えにはちゃんと意味があって先人の知恵が含まれていることが多いのでその部分はしっかりと守り伝えていくべきだと考えています。

編集部
自分の経験でもおじいちゃんやおばあちゃんから教わった風習で今でも守っていることはあります。それと似たような感覚ですよね。特にアイヌ文化ではその「守るべきこと」をみなさんでしっかりと継承されているということですね。

伊澤
そうですね。アイヌ民族に限らず世界共通な考え方かもしれませんね。ちなみに先ほどの「木の向き」ですが、私のアトリエ※の横にはチセがありますので、実際に「木の向き」を見てみたい方はお気軽にお越しください。いつも囲炉裏で薪をたいて室内をいぶしていますので気軽にご覧いただけます。
※伊澤さんのアトリエは上川町「北の森ガーデン」(2021年10月閉業)の敷地内にあります。





アイヌ文化伝承に必要なことは?


編集部
アイヌ文化をこれからも伝え続けるために必要なことってなんだと思いますか?

伊澤
自分たちが真剣に向き合うことだと思います。

編集部
真剣に向き合うとは??

伊澤
例えばアイヌ舞踊を踊るときには小さな子供から高齢者までみんなで一つになって踊ります。あらゆる世代が一緒になってアイヌ文化と真剣に向き合っている姿を見たときに、自然と共感の輪は広がっていくと思うのです。時代や流行に迎合して、事実を過度に演出するのではなく、自分たちができることを真剣にやり抜くことできっとアイヌ文化の素晴らしさは広がっていくと思います。

編集部
言葉で伝えることも大切だと思うのですが、確かに真剣に向き合う姿や、一心不乱に何かに取り組んでいる姿を見ると、言葉では伝えきれない想いが届きますよね。これはアイヌ文化の伝承に限った話ではなく、私たちの日常でも参考になる考え方だと思います。

伊澤
アイヌ民族といっても皆さんと同じ時代に同じように生きている日本人なので、その考え方がもっと広まると結果的にアイヌ文化の伝承につながると思います。つまり、無理せず、自然体で生きることが一番です。私もアイヌ文化について色々聞かれることも多いけど、私も知らないことがあるので、知らないことを聞かれたら素直に「わからないな〜」って答えています。笑

編集部
本日はお忙しい中貴重なお話をたくさんありがとうございました。


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編集部

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