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アイヌ工芸家 貝澤守さんインタビュー

アイヌ工芸家 貝澤守さんインタビュー

北海道東川町では、アイヌ民族をテーマにした映画「カムイのうた」を制作しています。MouLa HOKKAIDOでは、2023年秋の公開に先駆け、映画関係者やアイヌ文化に関わっている方々にお話を伺うプロジェクト「つながる、つづく、カムイの想い」を進行中。今回は平取町二風谷でアイヌ工芸家として活躍している貝澤守さんに日頃の作品作りのこだわりからアイヌ文化継承まで詳しくお話を聞いてきました。

独学で木彫の技術を習得する

編集部
貝澤さんが木彫を始めたきっかけを教えてください。

貝澤
父が木彫職人で、子供の頃からアイヌ工芸に囲まれて育ったこともあり、物心ついたときには木彫職人を志していたような気もします。初めて自分で木彫を彫ったのは、確か小学生の頃だったかな。夏休みの宿題で作ったのが一番古い記憶です。


貝沢民芸の外観

貝沢民芸の外観

編集部
仕事としてやり始めたのはいつ頃ですか?

貝澤
高校を卒業してすぐに札幌で就職して21歳の時に家業を継ぎました。現在58歳なのでもう37年も続けています。笑

編集部
子供の頃から将来は家業を継いで木彫の仕事に就こうと考えていたのですか?

貝澤
そこまで明確には考えていませんでしたが、子供の頃から物づくりは好きだったので木彫には興味がありました。でもこんなに長くやり続けるとは考えてもいなかったです。やっぱり木彫が好きなんでしょうね。

編集部
木彫の技術はお父さんから教えてもらったのですか?

貝澤
父は私が12歳の頃に他界したので、父から直接教わったことはないのですが、父の弟子の方に教わったり、近所の職人の方の姿を見て、見よう見まねで覚えました。誰かの手ほどきを受けたというよりは、基本は独学で、わからないことがあれば周囲の皆さんに教わっていた感じです。

編集部
貝澤さんの作品はとても繊細なデザインですよね。デザインのアイデアはどんな時に思い浮かぶのですか?


貝澤
ある日突然グッドアイデアが舞い降りてきた!ということはほとんどないですね。笑 最初にデザインを下描きするのですが、その段階で手を動かしながらデザインの構成を頭の中で整理するように作業を進めることが多いです。ちなみに母から聞いた父のエピソードなのですが、ある日寝ている時に立体作品のアイデアを思いつき、隣で寝ていた母を起こし立体作品のポーズをとってもらってスケッチすることもあったようです。

編集部
私も作家さんに対して勝手にそのようなイメージを持っていました。アイデアの神様が舞い降りてきた!みたいな。笑

木彫家としてのこだわりは?

編集部
最近はどのような作品が人気ですか?

貝澤
漫画『ゴールデンカムイ』の影響だと思うのですが、マキリの注文は多いですね。あとは日常で使える雑貨やちょっとした小物などは人気ですね。

編集部
貝澤さんが作品作りでこだわっていることはありますか?

貝澤
伝統的なアイヌ文様には先人の味わい深い技が生き残っているのでそれをしっかり伝承することを大切にしています。そのうえで自分の個性も反映できるように努めています。例えばこの作品でも使っていますが、この細かい鱗文様は、自分の代表的なスタイルのひとつだと思います。また作品全体のデザインバランスも重要です。文様を彫ること以外にも、何もデザインしない(彫らない)スペースをどう作るか。文様同士の「空き」のバランスに配慮することにもこだわって作っています。


イタ(盆)のイメージ写真

繊細な鱗文様が施されたイタ(盆)


イタ(盆)のイメージ写真

彫りと空きのバランスが美しい


編集部
貝澤さんの繊細な作品は、文様自体もそうですが作品全体のバランス、つまりデザインしない部分(空き)を緻密に計算されていたのですね。
使用する木材によっても作品に違いは出ますか?

貝澤
私はくるみの木が好きで良く使っています。くるみの木はとても刃ざわりがよくて彫りやすいです。私の作品の特徴でもある細かい鱗文様でも剥がれづらく、特にかつらの木と比較するととても彫りやすい。その他、木には色や、節など、それぞれに個性があるので作品の仕上がりをイメージして材料選ぶようにしています。


大切なのはアイヌ文様を次世代に残すこと

編集部
以前、九州出身のプロダクトデザイナーの方とコラボ作品を作られていましたよね?

貝澤
平取町では「暮らしにとけ込むアイヌデザイン」をコンセプトに、現代の生活様式に合ったアイヌ工芸品づくりにチャレンジする新たな取り組み「二風谷アイヌクラフトプロジェクト」をやっていて、私も参加しているのですが、そのプロジェクトの一環としてプロダクトデザイナーの原田元輝さんとのコラボレーションでアイヌ文様入りの万年筆を作りました。

編集部
どのような思いからそのプロジェクトに参加されたのですか?

貝澤
私は常々アイヌ文様を若い世代に残したいと思っているのですが、「二風谷アイヌクラフトプロジェクト」の活動内容にとても共感できたので参加させてもらいました。コラボ作品をご一緒した原田さんもまた「代々受け継がれるものを作りたい」という思いがあって、意気投合して一緒に作品を作りました。

編集部
「暮らしにとけ込むアイヌデザイン」というコンセプトは素晴らしいですね。実際に日常で使う物にアイヌ文様が施されていると自然と愛着も湧いてきますしね。
そのほか、アイヌ文化の継承のためにどのような活動をされているのですか?

貝澤
アイヌ文化の素晴らしさを多くの方に知っていただくためには、理屈ではなく楽しみながら伝統工芸を体験してもらうことが大切だと思うので、そのような場やコンテンツを提供しています。工芸品を実際に手に取っていただければアイヌ文様の魅力は伝わりますからね。

手彫り工芸品はとても魅力的なのですが手間がかかる分高価になるため限られた人にしか届きません。しかし昨今のデジタル技術、例えば「レーザーカッター」などを用いることで、手彫りよりは低価格で提供できますので、もっといろんな人にアイヌ工芸品を届けることができます。アイヌ文様を次世代に残すためには、魅力的な作品を作るだけではなく、工芸体験のやり方や情報発信の仕組みまで、複合的な視点で様々な工夫やチャレンジが必要だと思います。


編集部
貝澤さんにお弟子さんはいらっしゃるのですか?

貝澤
弟子はいないのですが、アイヌ工芸を学ぶ若者たちには日々教えています。平取町では「平取地域イオル再生事業」をやっていて、この事業はアイヌの人々が中心となって、既存施設や他の事業とも連携してアイヌの伝統的な文化の伝承と普及啓発をはかる拠点づくりをめざす活動です。現在この事業に数名の若者が参加しているのですが、冬期は作業がないので私だけではなく地域の木彫家が彼らにアイヌ工芸を教えています。

そのほか、私は「二風谷民芸組合」の代表理事もやっていますので、組合に入ってきた仕事の中で、彼らと一緒にできそうな作業は努めて一緒にやるようにしています。以前本州からの観光客向けに、二風谷の小さなイタ(盆)をプレゼントする企画があって、大量のイタ(盆)を制作したことがあったのですが、その際に彼らにも参加してもらいました。実際の仕事を通して伝えられることもたくさんあるので、積極的に彼らと仕事をシェアできるように心がけています。

次世代に残したいアイヌ文化の魅力とは?

編集部
貝澤さんにとって、アイヌ文化の魅力はどこにあると思いますか?

貝澤
アイヌ文化といっても一括りで説明するのは難しいですが、平取町にはアイヌ語教室があって子供から大人までアイヌ語を学ぶことができます。またこんな小さな町なのに、立派な博物館もあります。平取町に来ていただければ、きっとアイヌ文化の良さや魅力に気づいてもらえると思いますので、機会があればぜひ一度平取町に足を運んでいただき、ご自身でアイヌ文化にふれ、その魅力をそれぞれで感じ取っていただけると嬉しいです。

編集部
本日はお忙しい中貴重なお話をたくさんありがとうございました。


この記事を書いたモウラー

編集部

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