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下川町のきょういく〜その始まりと町の人びと。

下川町のきょういく〜その始まりと町の人びと。


今回は下川町教育委員会教育課生涯学習グループの和田主任にお話を伺いました。

下川町の「2030年における下川町のありたい姿(下川版SDGs)」のビジョンのひとつとして、教育や子育てに関連する「子どもたちの笑顔と未来世代の幸せを育むまち」というビジョンがあります。このビジョンをさらに具現化するために下川町では子どもを育む地域の姿として「地域共育ビジョン」を掲げて、日々様々な取組みを進めています。今回は教育委員会の和田健太郎さんに今までの経緯や現在の取り組みについてお話を伺いました。

(編集部)今日はよろしくお願いします。

(和田)こちらこそよろしくお願いします。

(編集部)私は日頃自分ゴトとして「教育」について考える機会が少ないのですが、最近教育関連の仕事をしている方と知り合うことがあって、その時に下川町の教育について教えてもらいました。「教育」ではなく「共育」という話を聞いて、え?キョウイク??と。それを機に下川町の教育について調べてみたところ、数年前からとても興味深い取り組みをされている。これは詳しく話を聞きてみたい!と思って今に至ります笑。

(和田)下川町に興味を持ってくださりありがとうございます。今日はどの辺から話しましょうか?

(編集部)下川町の教育について知ろうと思った時に、何から話を伺うと理解しやすいかな?と考えてみたのですが、一旦教育から離れて町や町民のみなさんについて聞いてみたくなりました。

(和田)わかりました。わかる範囲でなんでもお答えします。

(編集部)地域が一丸となって教育に取り組むといってもそう簡単なことではないような気がしていて。行動に移すためには柔軟なアイデアはもちろん、町民の理解、共感も必要ですよね。そもそも町民の方々は新しい考え方を柔軟に受け入れる気質だったのでしょうか?

(和田)突然ですが、下川町にも「万里長城」があるのご存知ですか?笑もちろん本家ほどの規模ではないですが石積みで作られています。何故下川町に「万里長城」があるかというと、農地・草地造成の際、大量の石が出ました。その石の処分で困っていた時に、当時たまたま中国に旅行に行った観光振興委員から「この石で万里長城を作ればいいんじゃない?」という提案があって、スタートしたと聞いています。笑


しもかわ観光協会ホームページより引用

(編集部)え?面白い!なんですかその凄すぎるアイデアと行動力は。

(和田)当初は「町民石積みの日」などを作り、休日の空き時間なども使ってコツコツ取り組んでいたようです。この頃は町の人口も減少傾向にあったので、町民としても危機意識を持ちながら、万里長城を作ることで、町の賑わいにつながるのでは?という期待感も原動力になっていたと思います。

町民が石を積んでいることが町外にも徐々に知られるようになり「下川町で面白いことをやっているね!自分にも手伝わせてよ!」と、興味の連鎖が生まれ町外から手伝ってくれる人が増えていきました。


しもかわ観光協会ホームページより引用


しもかわ観光協会ホームページより引用


手伝っていただいた記念に、本人のお名前を石に刻む習慣が生まれ、それも話題になりどんどん参加者も増えて、2000年に2000メートルの万里長城が完成しました。


しもかわ観光協会ホームページより引用


しもかわ観光協会ホームページより引用


(編集部)今でいう「体験型の観光」ですよね。1980年代からすでにやられていたんですね。

(和田)今でこそ当たり前ですけど当時はまだ珍しかったと思いますし、とても人気企画だったと聞いています。

(編集部)良いアイデアが、さらにまた良いアイデアを生む。何よりとにかくポジティブに動いてみることが大きな事を成し遂げる秘訣かもしれませんね。これは私たちの暮らしや仕事にも通じる考え方だと思います。勉強になります。

(和田)町民の気質として、言われたからやるというよりは、自分達がやりたいことに自主的に取組む傾向があると思います。人口も減り、観光資源に恵まれていなくても、悲観することなく、今できることを見つけて実行する。この精神は脈々と受け継がれているような気がします。私たちの上の世代の方たちも、若い時からチャレンジしているので、私たち世代が新しいことに挑戦しても、あたたかい目でいつも見守ってくれている。チャレンジに関しては寛容な町だと思います。

(編集部)じゃないと、万里長城作ろうぜ!とはならないですもんね笑。


SDGSに向かっていく

(編集部)第1回ジャパンSDGsアワードで内閣総理大臣賞を受賞していますが、なぜSDGsに取り組むことになったのですか?

(和田)SDGs以前に、下川町では2001年に「森林共生グランドデザイン」に「経済・社会・環境の調和による持続可能な地域づくり」というコンセプトを打ち出しており、それをベースにまちづくりに取り組んできました。「持続可能」という視点ではすでに過去からすすめていたわけです。これからの町の計画を考える時期になり、今の下川から先を考えるのではなく、こうだったらいいよねという未来の下川をイメージしてそのためにどうしたらよいかというバックキャスティングに基づき計画を考えるため、SDGsをとりいれました。

(編集部)その話めちゃくちゃ気になります!もう少し具体的に教えてください!

(和田)先ほどお伝えした通り、下川町は時代の変遷と共に常にチャレンジを繰り返しながら成長してきましたが、地域には様々な課題が山積しています。その対策を講じようと町民・企業・役場がそれぞれバラバラに対策を考えるのではなく同じ目標に向かってアイデアを考え、アクションを起こすことで「ありたい姿」に近づけるわけです。

私たちは、2030年の未来を想定し、町の姿を描きました。それが「2030年における下川町のありたい姿」で下川版のSDGsです。


2030年における下川町のありたい姿(下川版のSDGs)


下川町地域共育ビジョン


(和田)しなやかに強く幸せに暮らせる持続可能な町をコンセプトにしていて7つのゴールを作りました。
その中の一つに「子ども達の笑顔と未来世代の幸せを育むまち」があります。


将来の可能性が広がる地域づくり

(和田)「2030年における下川町のありたい姿」を決める際、最初この項目はありませんでした。内容がある程度まとまった段階でパブリックコメントをかけるため委員会に打診したところ、ちょっと待って欲しいという話になって。未来世代に対する責任に関する項目も含めた方が良いのでは?という意見が出て「子どもたちの笑顔と未来世代の幸せを育むまち」という項目を付け加えられました。

(編集部)最初からビジョンの中に子ども達に関する項目があったわけではないのですね。実行委員会の皆さんも、ギリギリまで細かく吟味して検討を進められていて素晴らしいですね。町に対する愛情を感じます。

(和田)この項目を付け加えた内容で、町民の意見や感想を募ったのですが、その結果追加した項目に対する反応がものすごく多くて驚きました。

例えば、子どもたちの「自ら考える力」や「主体性」を育んで欲しいなど多様な意見が集まってきました。とにかく想像以上に子ども達の教育環境に対する反応が高かったですし、出てくる意見もとても具体的でした。みなさん日頃から考えられていた課題であることがわかりました。

(編集部)家族の人生を考えた時に「教育」の優先順位が高くなることはとてもよくわかります。学校の勉強もそうですし、社会経験も子どものうちは重要な学びの場だと思うのですが、それらの機会を作ることは町づくりにとって重要なファクターの一つですよね。

(和田)例えばプログラミングを学びたい子どもがいても教える人がいないなど、子どもの可能性自体が縮小するような町には住みたくない。そうなると地域全体の活力が低下してさらに子どもの人数が減り、どんどん若者が集まらなくなるという負の循環が起こるわけです。その解決のためにも「教育」は入れるべき項目だったんだなと改めて感じています。


キーパーソンとの出会い

(和田)下川町では未来世代が将来の可能性を広げられると同時に、地域に愛着が持てるようになる仕組みを作ることができれば、持続的に町が成長するための基盤になると考え「未来人材育成プログラム構築実証事業」を立ち上げました。

(編集部)町として新領域へのチャンレジだったと思うのですが最初に何から始めたのですか?

(和田)専門的な知見をもった方に参画してもらうことが重要だと考え、知人にも相談しながら人選をしていたのですが、その時に現在教育委員会で「未来の学びコーディネーター」として活動してもらっている本間さんを紹介していただきました。

本間さんは新潟でNPO法人を立ち上げ、非認知能力(協調性、共感する力、 思いやり、社交性、道徳性などの人と関わる力)を育むことに携わってきた方です。当初は地域おこし協力隊として携わっていただきました。

(編集部)本間さんに最初にお願いしたのは地域共育ビジョンの作成ですか?

(和田)そうです。子どもが置かれている環境というのは「地域」と「学校」と「家庭」の3つなのですが、地域共育ビジョンというのは、地域側として子どもが育む環境をどう作るかを考えたものです。例えば町として、子どもの教育環境を良くします!と一方的に発信しても学校や家庭それぞれで都合や事情が異なるので、一筋縄ではまとまりません。一方で「地域」「学校」「家庭」の3つが関わる部分も当然あります。


(編集部)その関わる部分を可視化して何を目指し、何をすると良いか?を明確にするために地域共育ビジョンを作ったということですね。なるほど。とてもわかりやすいですね。

(和田)本間さんが下川町に来る前は、学校と地域を繋げる取り組みをやられていたので、今までの経験を元に地域共育ビジョンの作成に尽力いただきましたし、現在も今までの経験を役立てながら未来の学びコーディネーターとして活躍していただいてます。

地域と一つになり子どもたちを見守る

(編集部)町民のみなさんの意見を募ったり、逆に役場として新しい取り組みを伝えるのは大変ですよね。私もそうですが、人は誰しも新しいことに対して警戒心を持ちやすいですし。町民との対話を進めるうえで、ご苦労されたことはありましたか?

(和田)下川町の特性として世代問わず新しいことへの挑戦に対する理解が深く、みなさんはとても寛容だと思います。他の町と比較したことはないですが、いろいろ話を聞く限り地域の方の寛容さに支えられていると日々痛感しております。

教育に関して参加していただいてる地域の方々は、日々忙しく活躍されている方ばかりなのですが、いつも前向きにご協力いただいています。逆に子ども達がそんな大人の前向きな姿勢に追いつけない時があるくらいです。笑

(編集部)現在教育の仕事に携わっていて、気をつけていることはありますか?

(和田)学校と、子ども達に対して一つずつあります。まず学校に対してですが、先生方はそれぞれ大切にされている考え方や教育理論があるのでそれは尊重しています。私の立場でできることは限られているので、子どもの教育環境を一緒に良くしていきましょう!というスタンスは大切にしています。

子ども達に対しては、とにかく「見守る」というスタンスは大切にしています。子ども達はできないこともたくさんあって当たり前ですし、大人の尺度で焦らせない。そして、できれば褒めるようにしています。その上で、できてないことがあれば、ちゃんとわかるように伝えてあげることが大切だと考えています。

北海道には食や観光だけではなく、毎日の暮らしの中にも自慢したい「魅力」がたくさんあります。今回は下川町独自の教育に関する取り組みについてたくさんの方に知っていただきたくシリーズで紹介しています。


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