
「レッド・ウォーリアーズ 小川清史さんの北海道二刀流ライフ」(後編)
2024年12月、酷寒の釧路湿原へ人気ロックバンド「レッド・ウォーリアーズ」のベーシスト小川清史(おがわきよし)さんを訪ねた。
レッド・ウォーリアーズ(以下レッズ)といえば1985年にDAIAMOND☆YUKAIさん、木暮武彦さん(元レベッカ)、そして小川清史さんが結成した超人気ロックバンドだ。
1989年に一度解散したものの、1999年に再結成してからは完全復活を果たし2022年には中野サンプラザでデビュー35周年の記念公演を開催するなど現在は40周年に向けて精力的に活動中。
レッズの結成当時からのオリジナルメンバーとしてベースを担当している小川さんは2003年に北海道(釧路市標茶町塘路)に移住し、ペンション「とうろの宿」を経営しながら自らカヌーツアーを立ち上げ釧路湿原の魅力を発信し続けている。
多忙なミュージシャン活動と北海道での暮らしをどのように両立させているのだろうか、小川さんにお話を聞いてみた。
- ミュージシャンとカヌーイストの二刀流、東京と塘路の二拠点生活はなかなか大変だと思うのですが?
- 私は塘路に完全移住してますから純然たる北海道民です。
暮らしも人生も私にとって全てのベースがここにあります。
だから二拠点生活ではないですね、ミュージシャンの仕事で東京に滞在する場合は“出張”という表現が正しいです。
確かに環境は全く違うしやってることも違うので多少の時差ボケはあるかもしれません(笑)
でも20年以上そうやって生きてきましたからね、すっかり慣れましたよ。
- 東京でのミュージシャン活動と塘路での暮らしをうまく両立させるコツってあるんでしょうか?
- 塘路ではミュージシャンモードを完全にオフにしています。
東京の音楽スタジオってたいてい地下にあるじゃない、ビルばっかりで空は見えないし、雑音が多くて鼓膜がマスキングされちゃうんですよ。
こっちでは鳥の声や川の音、風の音を聴きながら暮らしてるわけですから、東京“出張”初日は今でも辛いですね。
それがいわゆる時差ボケってやつです(笑)
自分の楽器は東京の事務所に預かってもらっていて、東京でミュージシャンモードをオンにしたとき全集中して演奏してるんです。
だから塘路にいるときは全く音楽のことは考えないし、楽器にも触りません。
ベースの練習も一切しないんですよ。
このスイッチの切り換えが自分のスタイルには合っていると思っています。
レッズのメンバーによく言われるんです、お前それでよくベース弾けるなって(笑)
失礼ですよね、プロにむかって(笑)
- なるほど。ですが塘路のような“別世界”で暮らしていると音楽的インスピレーションが降りてきたりしませんか?
- 確かに塘路での素晴らしい日常は様々なインスピレーションをもたらしてくれるし、実際に交流のあるミュージシャンたちもここでカヌーを体験し多くの楽曲を生み出してますよ。
もちろん私も若い頃はいつも枕元にノートを置いて楽曲のアイデアが浮かぶとよくメモをとっていたんですが、それを音楽で表現したいとは思わなかったんです。
私はレッズのメンバーとしてミュージシャンとしての活動の場を与えて頂けていることが本当に恵まれてるし幸せだと思っているんです。
レッズなら大きなステージでプロのミュージシャンたちと爆音で演奏できますし、その喜びはかけがえのないものです。
私にとってレッズは大事な大事な居場所なんです。
しかし日常的に音楽のことばかり考えていたら、ステージに立ったときの新鮮な喜びが薄れてしまうような気がするんです、あくまでも私の場合はね。
ミュージシャンって常に音楽中心の生活じゃないですか、だから普通に生きてたら当たり前に経験するようなことも全くしてなかったりするんですよ。
それって大きな意味で人生を考えたときにマイナスなんじゃないかなって、いろんな経験しといた方が人生の幅が広がるし豊かなんじゃないかなって気づいたんです。
今、自分の目の前にある奇跡のような光景と純粋に対峙して、肌で感じ、素直に感動し、その瞬間に出会えたことに感謝する。
それはシンプルだけど最高にハッピーなことなんじゃないかな。
ガイドも私の大事な仕事なんですよ。
知事認定ガイドですし、ここのカヌーガイドの会長もやらせてもらってるんで、塘路を訪れる旅人たちとここでしか得られない感動を共有したいと思っています。
- 還暦を迎えられたそうですが、今後の抱負をお聞かせください。
- 月並みな話になるかもしれませんが今の私の抱負は“継続”です。
レッズでのミュージシャン活動も塘路でのカヌーガイドもこのままずっと続けていきたいです。
とくに私の拠点である塘路での暮らし、カヌーガイドの仕事は肉体労働でもありますから体調に留意しながら取り組んでいきたいですね。
釧路湿原は富良野や知床のような他の道内の観光地に比べたら地味な場所かもしれません。
その中でも塘路は湿原と山と湖があって川が流れている、ボクにとってここは「ムーミン谷」なんです。
ここにしかないオリジナリティー溢れるオンリーワンな魅力があるんですよ。
それを旅人たちと共感し続けていきたいですね、ずっとずっと。
- 最後に小川さんにとってロックとはなんでしょうか?
- ここ塘路での暮らしがロックそのものだと思ってますよ。
もちろんレッズでの活動もロックですが、大袈裟に言えばロックって闘うこと、つまり頑張ってることだと私は思ってるんです。
だから私にとってここで生きてることこそロックなんです。
超人気ロックバンドのベーシストでありながら釧路湿原をこよなく愛し北海道生活をおくる小川清史さん。
お会いしてみると大変気さくな人で、経営されてるペンション「とうろの宿」もさりげないホスピタリティーが感じられ小川さんのお人柄がうかがえるようだった。
夢や憧れを現実のものにするのは並大抵のことではない。
しかし小川さんのとてつもなくロックな人生哲学には旅情とロマンが溢れている。
小川さんは言う、真冬の北海道こそ最も魅力的なのだと。
確かに木々まで凍りつく厳冬期の釧路湿原には大自然への畏怖すら覚えるが、小川さんのカヌーを包み込むように湧き上がるけあらしは、朝陽に照らされ金色に輝き、厳しさの中にぬくもりを感じた筆者であった。
今日も小川さんは釧路湿原に旅人を迎え入れ、ベースをパドルに持ち替えて夢のような“別世界”へとカヌーを漕ぎ出す。
- 住所
- 〒088-2261 北海道川上郡標茶町塘路83−8
- 電話番号
- 015-487-3655
- 備考
- 全館禁煙のシンプルなゲストハウス。森に囲まれている。塘路駅から徒歩 4 分、塘路湖から 2 km。
客室は定員 3 名。テラス付きの客室もある。バスルームは共用の場合あり。
駐車場は無料。飾らない食事処がある。朝食付き。夕食の提供可能(季節による)。
ペット同伴可。
カヌーツアー通年実施。
※要予約