「レッド・ウォーリアｰズ 小川清史さんの北海道二刀流ライフ」（前編）

もともと北海道が好きで学生時代からよく旅行に来ていました。
とくに真冬の北海道がいいですね、初めて知床の流氷を見たときは感動しました。
広い、寒い、白い、北海道はどこよりもハッキリと明確な気候風土なんです、もう別世界です！ダイナミックな景観に衝撃を受けましたね。
そもそも子供の頃から鉄道が大好きで小学5年生の時にSLが見たくて時刻表を片手に釧路まで一人旅したのが北海道との最初の出会いなんですよ。
その後も度々北海道を訪れるようになり、高校時代には知床のユースホステルでギターを弾いたりしながら旅をするようになっていました。
大人になってミュージシャンになり、やがてレッズの人気爆発で多忙を極めていましたが1997年の5大都市ツアーが終わって時間が少しできたから、いつものように夜行列車で北海道へ向かったのです。
その時はちょっと疲れていたのかな、ふと静かな場所に行ってみたいなと思って鉄道を乗り継ぎ、たまたま辿り着いたのが塘路だったんです。
レッズの活動がピークだった頃はずっと音楽漬けの毎日でしたからね。
東京ってミュージシャンに限らず、そこに住み続けるためにはひたすら働き続けなければならない場所だと思うんですね。
当時の私はとにかく音楽を続けなければならなかったし、レッズ以外にもベーシストとしてスタジオワークやソロ活動をした時期もありました。
しかしある日、暮らしのために音楽にしがみついて生きなきゃならない自分に違和感を感じ始めたんです。
一度きりの人生ですし、他の場所に移り住んだり、もっと別な暮らしをしてみたいと思うようになりました。
少年の頃から胸に抱き続けていた冒険心が目を覚ましたのかもしれません。
新しい世界で新しいことに挑むなら40歳までに始めておきたいと思いました、今からちょうど20年ほど前のことです。

私が経営するペンション「とうろの宿」からは釧路湿原が一望できます。
塘路駅を経由してSLが走っていく様子もここからならよく見えるんです。
宿泊客からは鉄道ファンが高じてここにペンションを建てたのですか？と聞かれることもあります。
確かにそれも理由のひとつかもしれませんが、私の塘路への移住を決定づけたのはカヌーなんです。
レッズの活動がゆるやかになるとよく冬の塘路を訪れるようになっていました。
当時はここにユースホステルがあっていつも利用していたのですが、そこのオーナーが春になったらカヌーづくりの塾を開くからまたおいでよと勧めてくれたんです。
面白そうだなと思って春にまた塘路に戻ってきたんですよ。
で、カヌーづくりの講師を手伝っていたら「え!? お前カヌーに乗ったことないの？乗ったこともないのにカヌー作ってるの!? 乗りに行こう、乗りに行こう!!」ってなって（笑）
すぐそこのアレキナイ川で初めてカヌーに乗せてもらったんです。
私はクルマやバイクが好きで北海道をツーリングしたりするんですけど、モータースポーツってエンジン付いてるから煩いでしょ。
最初にカヌーに乗ったときに真っ先に感じたのは音がしないことなんです、全く無音なんですよね。
水面を音もなくスーッと進む不思議な乗り物に新鮮な感動を覚えました。
長い冬が終わって眩しい陽射しが降り注ぐ湿原でカヌーを漕いでると、鳥たちのさえずりがよく聞こえ、栁の新芽がうすく色づき始めていたりして命の息吹が溢れていたんです。
うわぁ〜、すげぇなぁって。
学生時代に見た知床の流氷以来の衝撃でした。
で、講師の人に教わりながら自分のカヌーを作って、練習してお客さんを乗せられるくらいになりました。
それが塘路に縁ができたきっかけです。
町の人たちとも交流を重ねて今では自治会の役員もしてるんですよ（笑）