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川村カ子トアイヌ記念館 副館長インタビュー

川村カ子トアイヌ記念館 副館長インタビュー

北海道東川町ではアイヌ民族をテーマにした映画「カムイのうた」を制作しています。MouLa HOKKAIDOでは、2023年秋の公開に先駆け、映画関係者やアイヌ文化に関わっている方々にお話を伺うプロジェクト「つながる、つづく、カムイの想い」を進行中。今回は映画製作に携わった川村カ子トアイヌ記念館副館長の川村久恵さんに日頃の取り組みや映画にかける想いについて詳しくお話を聞いてきました。

21歳で東京から旭川へ移住

編集部
本日はよろしくお願いします。
早速ですが、川村さんはどちらのご出身ですか?

川村
生まれも育ちも東京です。21歳の時に結婚を機に旭川に移住しました。
記念館に嫁いだのでもうかれこれ30年近く記念館の仕事をしています。

編集部
記念館では普段どのようなお仕事をされているのですか?

川村
東京にいた頃からアイヌ文化には慣れ親しんでいたのですが、詳しいというレベルではなくなんとなく知っている程度でしたので、旭川に来た当初はアイヌ文化についてわからないことが多く、アイヌについて学ぶことから始まりました。記念館では受付の仕事から始めたのですが、30年くらい前は観光客の方も多かったので、観光客向けにアイヌ古式舞踊も踊っていました。

それでも当時はさほど忙しくはなかったのですが、2005年に敷地内にアイヌの住居「チセ」を建てた頃から、アイヌ文化について深く学ぶための自学の時間を増やしたり、記念館のホームページも自分で作ったので、多方面でやることが増えて次第に忙しくなっていきました。

編集部
体験プログラムの充実も必要ですしね。

川村
そうですね。体験プログラムに関しては、最初は自分1人で完結できることを考えて、アイヌの伝統楽器「ムックル」の製作や演奏の体験プログラムを始め、現在ではアイヌ刺繍、古式舞踊、アイヌ文様切り紙などのプログラムもやっています。

編集部
体験プログラムは種類が増えると運営も大変だと思うのですが、そもそも体験プログラムで実施しているコンテンツって東京時代からやられていたわけでは無いですよね?

川村
踊ったり、何かを作ったりなどは、ほぼ経験がない状態だったので、これらも旭川に移住してから周囲のアイヌの方に教わりました。

編集部
たくさんのコンテンツを一から学ぶのは、とても大変なことですよね。もちろんたくさん努力をされたと思うのですが、そもそも川村さんは、学ぶことに長けているタイプなんでしょうね。ちなみに、先ほどホームページを自分で作ったとおっしゃっていましたが、元々どこかでホームページ制作を学んだり経験があったのでしょうか?

川村
全くの未経験です。笑 そんな大したことはしてないですがソフトを買ってきて見よう見まねで作りました。

編集部
それはすごいですね。やはり学びの達人ですね!

アイヌ文化×クリエイティブの取り組み


編集部
体験プログラムの「アイヌ文様切り紙体験」は、出来上がるまでのワクワク感があり、さらに完成すると素敵なデザインが目の前にパッと広がるので、とても魅力的なプログラムだと思いました。ちなみにデザインはご自身で考えているのですか?

川村
ありがとうございます。切り紙体験で作るデザインは私が考えています。切り紙体験はハサミ1本でできるので、お子様から高齢の方まで幅広い層の方に体験いただける点が良いと感じています。他にアイヌ文様を体験するプログラムとして「アイヌ刺繍体験」もあるのですが、こちらもとても素敵な作品ができるのでぜひご体験いただきたいのですが、切り紙体験よりは所要時間が必要になるため、どなたでも手軽に体験できるという意味では「アイヌ文様切り紙体験」はおすすめですね。

編集部
アイヌ文化を1人でも多くの方に体験いただくためには、切り紙体験のようにたくさんの方が、同時にしかも簡単に参加できるプログラムはピッタリだと思いますし、逆にお時間がある方にはじっくりと取り組める刺繍体験が合ってますよね。記念館ではバリエーション豊かに体験プログラムが用意されているので、それもまた多くの観光客が訪れている理由の一つですよね。

川村
体験される方のご希望もあるし、旅程など、スケジュールとの兼ね合いもありますので、体験プログラムを考えるときには、なるべく多くの方にご参加いただけるように心がけています。

編集部
地元旭川企業とのアライアンスで、アイヌ文様をモチーフとしたパッケージデザインなども取り組みまれていますが、このような取り組みは、アイヌ文化に触れる間口が増えるのでとても良い取り組みですね。

川村
そうですね。パッケージデザインも、デザインの内容については私の方で担当させていただき企業と一緒に進めています。旭川はものづくりの会社が多いので、皆さんが手にする商品からアイヌ文化を感じてもらえる機会がもっと増えると良いと思います。

編集部
川村さんの活動は、歌、踊り、デザインと、クリエイティブなものが多いですよね。お話を聞いていて、多くの人にアイヌ文化の魅力を伝えていく際には「クリエイティブ」が有能で有効な手段だと感じました。

川村
私の活動のコンセプトというか、大元には「アイヌ文化を感動とともに伝えていきたい」という考え方があります。ムックル演奏も、古式舞踊も、もちろんデザインも、アイヌ文化を心で感じられる手法だと思います。理屈抜きで感じられることで子供から高齢の方までアイヌ文化の魅力があっという間に伝わる場合もあると思います。

クリエイティブという意識は特にしていませんでしたが、でも確かにクリエイティブワークは昔から好きだったかもしれませんね。この記念館も今年の7月のリニューアルオープンに向けて改装をしていますが、空間デザインのアイデアも自分で考えて建築デザイナーとの方と一緒に作っています。

編集部
ホームページも自分で作っちゃうくらいですしね。笑


映画「カムイのうた」に託す想い

編集部
川村さんと映画「カムイのうた」はどのような出会いだったのでしょうか?

川村
東川町さんで、2011年にアイヌ文化を記録した作品「ヌプリコロ カムイノミ」(写真集とDVDのセット)を作られたのですが、その映像監督を今回の「カムイのうた」の菅原監督が担当されていました。

「ヌプリコロ カムイノミ」は、当時の川村カ子トアイヌ記念館館長であり、私の夫でもある川村兼一の記録映像なので、その時に私も菅原監督と初めて出会いました。菅原監督とお話をしている際に、知里幸恵さんテーマにした映画を作ろうと思ってもなかなか実現できないというお話をされていて、その話を聞いた東川町の松岡前町長がぜひ作りましょう!と賛同されて、それがきっかけとなり映画作りのプロジェクトが立ち上がりました。知里幸恵さんは、この記念館の近くで人生の大半を過ごしていますし、いろんなタイミングやご縁が重なり私も今回映画制作に協力をさせていただくことになりました。

編集部
具体的には、映画製作にはどのように関わったのでしょうか?

川村
台本を読ませていただき私なりの感想や意見を少しお伝えしたり、映画のキャスティングも少しお手伝いさせていただきました。今回、映画「カムイのうた」のオリジナルトートバックを作ったのですが、そのバックのデザインディレクションも私の担当です。

編集部
川村さんは日頃から多くの方にアイヌ文化を体験してもらいながらその素晴らしさを伝えられていますが、今回の映画もまたアイヌ文化について多くの方の理解が深まるきっかけになると思います。映画製作に携わった立場からこの映画を観ていただいた方にどのような思いを届けたいですか?

川村
知里幸恵さんの代表作である「アイヌ神謡集」は、アイヌ文化の復権復活へ重大な転機をもたらしたことで知られていますが、特にその序文が高く評価されています。序文の中で知里幸恵さんは、時代が進展していく一方で、先祖が大切にしていたものがどんどん失われていくことを嘆いています。しかしそんなアイヌ民族にとって厳しい時代の中においても、知里幸恵さんは逞しく生きていました。今回の映画ではアイヌ文化の素晴らしさが映像でわかりやすく伝わると同時に、そんな知里幸恵さんの生き方を通して、生きる勇気や希望を感じていただけるのではないかと思います。

編集部
アイヌ民族にとって厳しく過酷な環境の中でも、知里幸恵さんが逞しく生きることができた原動力は何だと思いますか?

川村
差別されても、困難に直面しても、自分たちが存在し続けられたことへの誇りではないかと思います。
この映画のタイトルにも使われている「カムイ」とは、人間の周りに存在するさまざまな生き物や事象のうち、人間にとって重要な働きをするもの、強い影響があるものを指します。カムイはあらゆるところに存在していて、いつも自分たちを見守ってくれています。動植物や火、水、風、山や川などもカムイであり、カムイは肉や毛皮などを土産として人間の世界にやってきます。

アイヌ民族はこのように豊かな発想を持って、どんな厳しい環境でも、逞しく、前向きに生きてきました。そのことへの誇りが、きっと知里幸恵さんの原動力だったのかな?と私なりに解釈しています。

編集部
今のお話を伺って、今回の映画はアイヌ民族がテーマになっていますが、この映画から得られる「気付き」は、アイヌ民族だけではなく、人間として生きるうえの重要な普遍的テーマだと感じました。

川村
そうですね。自分が暮らしている立場や環境に関わらず、今、自分の周りにいる人間以外の、自然や生き物ものも大切な存在であるし共に生きている。日常の中でそんな意識を持つだけでもきっと、何かにつまづいたり、迷ったり、困難なことあっても、明るく前向きに生きるためきっかけになると思います。

今回の映画は、テーマとして、一見難しそうな印象を持たれる方もいらっしゃるかもしれませんが、菅原監督をはじめ、演者やスタッフの皆様のお力で、エンタメとしても魅力的な作品になっていると思います。ぜひ子供から大人まで、楽しんで観ていただけると嬉しいです。

編集部
本日はお忙しい中貴重なお話をたくさんありがとうございました。


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