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アイヌ文様刺繍サークル「フッチコラチ」代表インタビュー

アイヌ文様刺繍サークル「フッチコラチ」代表インタビュー

北海道東川町ではアイヌ民族をテーマにした映画「カムイのうた」を制作しています。MouLa HOKKAIDOでは、2023年秋の公開に先駆け、映画関係者やアイヌ文化に関わっている方々にお話を伺うプロジェクト「つながる、つづく、カムイの想い」を進行中。今回は白老町にてアイヌ文様刺繍サークルを運営しながらアイヌ文化の素晴らしさを伝えている岡田育子さんに日頃の取り組みや今回の映画について話を聞いてきました。

見よう見まねで始まったアイヌ文様づくり

編集部
本日はよろしくお願いします。
岡田さんは白老町でアイヌ文化の刺繍サークルを運営されていますが何年くらいやられているのですか?

岡田
アイヌ文様刺繍サークル「フッチコラチ」は平成9年に設立しましたので今年で26年目になります。

編集部
「フッチコラチ」って、音の響きが可愛いですね。笑どのような意味なのですか?

岡田
「フッチ」はアイヌ語で おばあさん。「フッチコラチ」でおばあさんのようにという意味なんですよ。

編集部
アイヌ文様刺繍サークルはどのような経緯で立ち上げたのでしょうか?

岡田
平成7年に機動職業訓練の織布科を受講したのですが、その時の仲間と立ち上げました。夫がアイヌ文化研究者ということもあり、この受講をきっかけにアイヌ文様を形にしてその素晴らしさを伝えていきたいと思ったのが始まりです。


編集部
サークルを立ち上げた時にはすでにアイヌ文様刺繍の技術は習得されていたのですか?

岡田
最初は何もできませんでした。まずは手探りで自分の作品を作ってみることから始めたのですが、幸い先祖が残してくれた着物もありましたし写真などの資料もあったので、見よう見まねで試行錯誤を繰り返しながら伝統的な文様を再現して少しずつ覚えていった感じです。

ある程度作品がたまってきた頃に、北海道アイヌ協会で主催している「北海道アイヌ伝統工芸展」に応募しました。一年に一回の公募展示会なのですが、結果的に20年間毎年出品することに。その甲斐あってかその間に優秀賞を3回受賞することができ協会から「優秀工芸師」として認定いただくまでになりました。

編集部
見よう見まねで作り始めたアイヌ文様刺繍も、20年後には「優秀工芸師」として評価されるまでになるなんて素晴らしいですね!継続は力なりですね。

岡田
私がアイヌ文様刺繍を始めた30年くらい前はアイヌ文様について詳しい方もまだいらっしゃったので、困った時に誰かに聞ける環境があったことは恵まれていたと思いますし、サークル仲間や周囲の方々のお力添えがあったからこそ、なんとか今日まで続けられたのだと思います。


後世に伝えるべきアイヌ文化の魅力とは


編集部
アイヌ文様刺繍を教える際に気をつけていることはありますか?

岡田
私がアイヌ文様を学び始めた頃は題材として着物を作る機会が多かったのですが、今は日常的に着物を着る機会って少ないので、なるべく暮らしの中で役に立つもの、例えば、コースターやランチョンマット、バッグを題材としてアイヌ文様刺繍の作り方を教えています。

今は布一つとってもいろんな素材が揃っていますし、色の使い方も昔よりはバリエーションも豊富なので今の時代の感覚をうまく取り入れながら時代に合ったものを作るようにしています。

編集部
独学でアイヌ文様刺繍の作り方を習得されるなど、岡田さんはいつも創意工夫を凝らしながら、常に積極的に活動されている印象ですが、岡田さんがそこまで頑張れる動機には何があるのでしょうか?

岡田
サークル立ち上げメンバー共通の志として、機動職業訓練で学んだことを何かに役立てて、自分たちのスキルもさらに成長させたいという気持ちが強くありました。映画「カムイのうた」のモデル「知里幸恵」さんも逆風の中にあってもアイヌ文化を後世に残そうとたゆまぬ努力を続けられましたが、私たちもまたアイヌ文様を通してアイヌ文化の素晴らしさを1人でも多くの方に伝えたいという強い思いはありますし、それもまた今の活動が続けられている動機のひとつだと思います。


編集部
岡田さんが思う、後世に伝えていくべきアイヌ文化の魅力はなんですか?

岡田
アイヌ文様は基本的に渦巻きの「モレウ」、トゲのような括弧(かっこ)文様の「アイウシ」、菱形の「シク」の三種類で構成されます。これらを組合わせて文様を作っていくので最初はこの基本形をしっかり学びます。しかしその基本形さえ習得できれば、あとは自由に、自分だけのオリジナル文様を作ることができます。もちろん基本形を覚えると言っても一朝一夕にはできないですし私たちも古い文献や図録を見ながら試行錯誤を重ねて習得しましたが。

私は長い間アイヌ文様と向き合ってきましたが、その間ずっと「先祖が作ったアイヌ文様を模倣するだけで良いのだろうか?」という自問自答を繰り返してきました。やはり昔のままではなく、少しでも良いので自分なりのテイストを入れた、自分ならではの文様として仕上げてみよう。そう思いながら作ってきました。おそらくこうやってアイヌ文様は先祖から代々進化をしながら伝わってきたのではないかと思います。

アイヌ文化は伝統を大切にしつつも時代と共に進化発展することを大切にする文化だと思います。そのことは後世にも伝えるべきアイヌ文化の魅力だと思いますし、私もアイヌ文様を通して1人でも多くの方に伝えていきたいと思います。

編集部
お話を伺っていて、継承すべきことはしっかりと継承しつつも、さらに新しい価値を生み出すことはとても大切だと感じました。

岡田
そうしないと何ごとも発展しないですよね。「いつまでも昔のままで良いのか?」という自問自答が人を成長させると思います。
もちろん変えてはいけないものや、普遍的に変わらないものもあるので、それらはしっかりと継承することが大前提にはなりますが。

編集部
今の若い世代にとってはその考え方はとても共感しやすいと思いますし、とても参考になると思います。

映画「カムイのうた」に向けたメッセージ

岡田
知里幸恵さんは、逆境においても常に前向き生きてきたわけですよね。その努力のおかげで現代にもアイヌ文化がしっかりと継承されています。特に近年ではアイヌ文化は注目されていますし、もしも今のこの状況を知里幸恵さんが知ったらさぞかし嬉しいだろうなと思います。

知里幸恵さんは19歳という若さで亡くなられましたが、著書『アイヌ神謡集』は亡くなった後に出版され今なお読まれ続け影響を与えているわけですから素晴らしい功績ですよね。その知里幸恵さんがモデルになった映画なので、きっと見た方それぞれに感じるものがあるでしょうし、少なからず現代を生きる上で参考になる考え方や、今まで気づけなかったような新しい視点を見つけられるのではないかと思います。私も早く映画を見たいです。

編集部
本日はお忙しい中貴重なお話をたくさんありがとうございました。


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編集部

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