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大雪山自然学校代表理事 荒井一洋さんインタビュー

大雪山自然学校代表理事 荒井一洋さんインタビュー

北海道東川町では、アイヌ民族をテーマにした映画「カムイのうた」を制作しています。MouLa HOKKAIDOでは、2023年秋の公開に先駆け、映画関係者やアイヌ文化に関わっている方々にお話を伺うプロジェクト「つながる、つづく、カムイの想い」を進行中。今回は東川町でNPO法人大雪山自然学校の代表理事として活動されている荒井一洋さんに日頃の活動について詳しくお話を聞いてきました。

アイヌ文化を日常で感じるために

編集部
荒井さんは学生時代から自然に興味を持っていたのですか?

荒井
親がアウトドア好きだったこともあり、家族で登山をするなど自然と触れる機会は多かったと思います。

編集部
高校生の頃にニュージーランドに留学されたと思うのですがなぜニュージーランドを選んだのですか?

荒井
高校1年生の冬休みからニュージーランドに留学しました。当時自転車のロードレースをやっていたのですが、その時同じクラブチームに所属していたニュージーランド人がとてもかっこ良くて、すっかり影響されまして。それがきっかけでニュージーランドに興味を抱くようになりその結果留学する運びとなりました。笑

編集部
どのくらいの期間留学していたのですか?

荒井
当初は1年間の予定だったのですが、結果的に留学先の高校を卒業してニュージーランドの大学に進学しました。

編集部
きっとニュージーランドの文化と相性が良かったのですね。ちなみにマオリとの交流もありましたか?

荒井
大学生の時にはマオリクラブに入って毎週活動していました。

編集部
マオリクラブ??どんな活動をしていたのですか?

荒井
クラブといっても、マオリのメンバーと一緒にご飯食べたりハカの練習をして楽しんでいた感じです。

編集部
ニュージーランドでは人種の垣根なくマオリと白人が暮らしていると聞きますが、それは荒井さんも感じましたか?

荒井
ステージ上でハカを踊るパフォーミングアートに私も参加していました。つまり人種に関係なく踊りたかったら誰でも自由に参加できます。そもそもニュージーランドの公用語はマオリ語と英語ですしね。人前で挨拶をする時には必ず最初にマオリ語で挨拶をして、その後英語で話をします。それは大臣でも、校長でも、誰でも自然にそうしています。


編集部
荒井さんは大雪山自然学校のコンテンツ作りの一環として、アイヌ文化と接する機会も多いと思うのですが、ニュージーランドの体験を踏まえて何か心がけていることはありますか?

荒井
うちのスタッフが、川村カ子トアイヌ記念館(旭川市)に月に1,2回ほどお邪魔して、副館長の川村久恵さんからアイヌ文化について学ばせてもらっています。そこでは「学ぶ」だけではなく、例えば久恵さんが多忙で急に外出されることになったら、代わりに我々がチセの掃除をすることもあります。これがとても貴重な「体験」でして。つまり、お手伝いをすることで我々にとっての非日常が日常に変わるのです。囲炉裏の回りを踏んではいけない。とか、東の窓からのぞき込んではいけないとか。日常の中でしか感じられない気づきや学びがたくさんあります。ニュージーランドでもバスの中でマオリ語の会話が飛び交っているくらい、常に日常の中でマオリ文化が感じられます。やはり非日常ではなく日常の中で文化を体感できることはとても意味があると思います。

編集部
アイヌ文化をもっと日常の中で感じられるためにはどうしたら良いと思いますか?

荒井
簡単な話ではないと思うのですが、もしもアイヌ文化に興味関心が持てたなら、まずはその文化に触れて、自分なりに楽しんでみることが大切だと思います。その楽しんでいる姿を見た人が、「あ!なんか楽しそう!」と感じて自然と周りに集まってくる。その繰り返しがきっと日常に繋がっていくと思います。この指とまれ作戦です!笑

現在の仕事について

編集部
東川町に来て最初にどのようなお仕事をされたのですか?

荒井
東川町には2000年に移住したのですが、1年目は旭岳ビジターセンターの職員として勤めて、2年目に大雪山自然学校を作りました。ビジターセンターで働いていると来場者のニーズもわかりますし地域情報も集まりますので、それらにしっかりと耳を傾けて日常の業務に活かすようにしていました。

編集部
ではビジターセンターでの知見が、大雪山自然学校の礎になっているのですね。

荒井
そうですね、貴重な体験をさせてもらいました。その他東川町内で高齢者の向けの健康づくりプログラムの企画・運営などもやっていたのですが、その活動で知り合った社会教育分野で活躍されている人たちとの繋がりができたのも、大雪山自然学校を立ち上げ時の大切な「人財」になっています。

編集部
まさにビジターセンターで得た「知見」と、荒井さんならではの「人財」が大雪山自然学校誕生につながっているのですね。

荒井
まあ、かっこよく言うとそうですね。
実際は、次何やろうかな〜と考えたら、大雪山自然学校しか選択肢がなかったとも言えますけどね。笑

編集部
大雪山自然学校ではどのような活動をされているのですか?

荒井
私たちはビジョンとして「人と自然が共生する持続可能で豊かな暮らし」を掲げています。自然との共生は、口で言うのは簡単ですが実際に実践するといろんな問題が出てきます。それらの問題に自発的に向き合い、解決に向けて自律的に行動できる考え方や具体的なアクションプランを学べる場を提供しています。

具体的には子供向けの自然体験プログラム、大人向けのエコツアー。外来種の防除やゴミ拾いなどの環境保全に、大学生を対象にボランティア研修などをやる人材育成にも取り組んでいます。


大雪山自然学校の活動内容

①環境保全活動
大雪山国立公園旭岳周辺での環境保全活動や外来生物防除、森づくり活動など
②子供自然体験活動
小学生を対象に月に1回実施する自然体験プログラムや長期休暇中のキャンプなど
③地域に根差した交流推進活動
大雪山をフィールドにしたエコツアーガイドやキトウシ森林公園での健康プログラム
④人材育成活動
自然案内人の養成講座や大学実習・研修生・インターンシップの受け入れなど

編集部
大雪山自然学校のお仕事以外も手掛けられていると思うのですがもう少しお仕事の概要を伺っても良いでしょうか。

荒井
大雪山自然学校の仕事以外には、アドベンチャー北海道という合同会社で外国人観光客の英語ガイドの仕事もやっています。その他北海道アドベンチャートラベル協議会の会長や、いくつか観光やまちづくりに関わる仕事もしています。

編集部
とてもたくさん活動されているのですね。ちなみに最近「アドベンチャートラベル」という名前をよく耳にしますが、そもそもアドベンチャートラベルってどのような定義なのですか?

荒井
アドベンチャートラベルを推進する世界最大の組織、アドベンチャートラベル・トレード・アソシエーション(ATTA)の定義では、自然との関連、異文化体験、身体的活動のいずれか2つを満たしていれば、アドベンチャーである。と定義づけています。

編集部
アドベンチャートラベルにはどのようなコンテンツがあるのですか?

荒井
先ほどのATTAの定義の範疇で、旅行者が「これはアドベンチャーだな〜」と感じられるものであればコンテンツとして成立します。例えば海外からの旅行者に北海道の先住民族であるアイヌ民族の文化を体験してもらうとか、東京からの旅行者に畑で何かの収穫体験をしてもらうことも、アドベンチャートラベルのコンテンツの好例だと思います。

自然と共に生きていく素晴らしさ

編集部
荒井さんにとってアイヌ文化の魅力はどこにあると感じますか?

荒井
パッと思い浮かぶのは「無理がない」こと。自然と共に生きてること。ですかね。
伝統を大切にしながら、新しい考え方や生活様式を柔軟に取り入れて現在まで文化が伝承されてきましたよね。アイヌの伝統料理で使う食材も、今と昔では変わっているものもありますし。伝承すべきことは大切に守り抜きながら、新しい文化を柔軟に取り入れる姿はとても素晴らしいと感じています。

編集部
アイヌの人たちは、自然と共に暮らすから、自ずと自然について詳しくなる。理想的な好循環が生み出されていますよね。


荒井
私が今やっている大雪山自然学校の活動には、2つの基本方針があって、1つ目は「自然体で自分に無理の無いように過ごすこと」で、2つ目は「やりたいことをやる」です。

編集部
まさにアイヌ民族の生き方と通じますね。

荒井
現代の私たちの暮らしの中では、蛇口を捻れば水は出ますし、スイッチを押すだけでストーブがあっというまに部屋を暖かくしてくれるわけですから、ともすると自然との共生の方法がわからなくなる。でもアイヌ民族の暮らしからは、たくさんの自然との共生の方法が学べます。だから私たちは日頃からアイヌ文化と接して、無理なく自然と生きることを学ばせてもらっていますし、学んだことを、旅行の体験プログラムにも積極的に取り入れて、旅行者や興味のある方にはそのことを伝えてきたいと考えています。

映画カムイのうたについて

編集部
日頃お仕事で常にアイヌ文化と関わっている荒井さんとして、映画「カムイのうた」は観た人に何をメッセージできると良いと思いますか?

荒井
映画のメリットは、ビジュアルで伝えられるところだと思います。資料だけだとどうしても想像するのが難しいけど映画というビジュアルコミュニケーションを図ることで、言葉では伝えづらい感覚やエモーショナルな部分まで伝えられるので、そこが映画の魅力であり、強みですよね。あとは、映画の世界観って理屈抜きでかっこ良い!映画で初めてアイヌ文化に触れる人にとって、初めて観たものがとてもカッコ良いとか、素敵に感じられるってとても重要だと思います。

編集部
アイヌ文化を知ってもらうための明確な動機付けというか誰もが入りやすい入口になりますよね。

荒井
映画を通じてアイヌ文化に興味を持ってもらい、それがきっかけでアイヌ記念館や資料館などに足を運んだり、私たちと直接お話しする機会につながれば、さらに興味を深掘りしてもらえると思いますし。何事もとっつきやすいきっかけ作りって大切ですよね。

編集部
そう考えると映画って思いとか文化とか形にできないコトを伝えるための有能なツールですよね。

荒井
映画「カムイのうた」はアイヌ文化を知ってもらうためのタッチポイントとして、公開後も色々なシーンで機能できると良いですね!

編集部
本日はお忙しい中貴重なお話をたくさんありがとうございました。


この記事を書いたモウラー

編集部

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