【vol.27】はじまりの物語
始まりのラジオ
ラジオを初めて聞いた日を覚えていない。
幼少期から家の中や車の中では、FM高知が流れていたことは覚えている。
父が熱心に好きだったわけではないようだが、日常のBGMとしてラジオを選んでいたらしい。
小学生の頃の私は。食事中にテレビを見ると箸が止まる性格だったようで、気づけば食事中もテレビではなくラジオになっていた。だからといって「ラジオが好き」と思ったことは無かった。
14歳の秋。中学校2年生になった私は、勉強のお供に父から譲り受けたラジオを選んだ。
宿題をしながら音楽やパーソナリティの会話を聞いていた。そして、運命の2005年10月3日。この日、私の物語は始まった。
今でも放送している「SCHOOL OF LOCK!」が始まった。
たまたま放送初日を聞いていて、ラジオから聞こえてきた学校のチャイム、黒板にチョークで書く音、校長、教頭と名乗るパーソナリティに親近感を覚えた。
「未来の鍵を握るラジオの中の学校を開校します!」という言葉は、私の心を刺激した。コンセプト通り「学生向け番組」だった為、これまで聞いていた番組と違って、勉強の悩み、恋愛相談、部活動応援など日常生活に近い話題が多かった。初めて「自分に向かってやってくれているラジオだ」と思った。
「SCHOOL OF LOCK!」ではリスナーを「生徒」と呼び、その生徒と生放送内で話をすることが恒例企画だった。番組開始から数か月経ったある日の放送で、当時14歳で日本のどこかに住んでいる女の子が生電話出演していた。その子は学校でいじめを受けている子だった。
彼女の話を聞いたパーソナリティの校長と教頭は「家族に相談はできるかな?」と聞いたところ、その子はこう言った。「家では殴られたり蹴られたりしていて相談できません」。続けて「死にたい」と言葉にしました。この日も勉強をしながら聞いていた私のシャーペンは止まり、気づけばただラジオを聞いていた。
ドラマや映画、アニメや漫画ではない。
今、どこかで生きている14歳が涙を流しながら発した言葉に私はショックを受けた。それはパーソナリティも同じだったようで、"無音"の時間が続いた。
その日の放送で最後に彼女は「私は学校でいじめられているし、家では暴力を受けていて死にたいと思っています。だけど、SCHOOL OF LOCK!だけが、ラジオだけが私の居場所なんです。だから明日もこの学校に来ます。」と言った。
私はその時に初めて「ラジオって凄い」と思った。同時に「ラジオをやりたい」と未来の鍵を手に入れた。
途中のラジオ
この記事を書いているのは2025年1月。今年の10月には「SCHOOL OF LOCK!」は放送から20年を迎える。世代交代をしながら、今でも10代を支える番組として、全国に声を届けてくれている。そして私はFM北海道で「IMAREAL」という番組を担当している。
この番組は週に1度、学校に訪問し学生と直接出会い、“イマのリアルな声”をラジオから届けている。同時にラジオに触れてもらうきっかけ、入口になる番組作りを心がけている。この連載のタイトル「非効率の向こう側」は番組が始まる前に、週に1度学校に行くと言った時、ある人に「そんな非効率なことしてどうするんだ」と言われたところからきている。
番組は現在8年目、上手くいけば春には9年目を迎える。非効率なことを続けた結果はこの連載を読んでいただければ伝わると信じている。
約20年前に、私に未来の鍵をくれた当時14歳の女の子が今もどこかで笑っていたら良いなと心から願っている。そして、いつか直接「ありがとう」と伝えたい。これはまだラジオの途中。最後のラジオには何が待っているのか?それは近いのか?遠いのか?は分からない。変わっていく時代の中で。変えないのは14歳の時の気持ち。私は今日も学校訪問に向かう。