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【vol.18】制服と声と音楽と
FM北海道アナウンサー/パーソナリティの森本優が週に1度の学校訪問を通して感じたことや出会った学生のことを紹介。開始当初は「非効率」と言われた学校訪問企画から生まれた出会いにあなたも触れてください。

【vol.18】制服と声と音楽と

あ、わたしはいいです。

「森本さん!高校生になりました!私の学校に来てください!」
今月の「非効率の向こう側」は、そんなメッセージをくれたリスナーがいる、ふたつの高校のお話。

毎年、この時期は取材依頼のメールが多く来る。週に一度の学校訪問も8年目を迎えた。コロナ禍で行けなかった約3カ月を除いて、毎週どこかの学校に行っている。それを聞いていたリスナーが私のところにもいつか…そんな想いを胸に、受験勉強していたと思うだけで"やりがい"を感じます。

メッセージをくれたのは札幌第一高校合唱部の生徒。この学校はこれまでも取材したことがある。練習中に生徒を笑わせようとボケ倒す先生がいる。そのボケに対して大笑いするときもあれば、真顔で見つめているときもある。心に正直な生徒が多い。

約2年ぶりの訪問日。学校に行き、まずは合唱を録音した。今の時代、スマホでも良い音質で録ることができる。会社の先輩から昔話を聞くことがあるけれど、便利を知った私は、絶対に過去に戻りたくないと思った。そんな私の現在、目の前には3人の生徒が緊張の面持ちでインタビューシートに目を向けている。

メッセージをくれた生徒はどの子だろう?と思い先生に聞くと、メッセージをくれた生徒は今回インタビュー出演に手を挙げなかったそうだ。それに関しては全く問題ない。ただ、私は感謝を伝えたかった。その生徒を呼んでもらい、「せっかくだから出てみない?」と聞いてみると、即答で「あ、わたしはいいです。」と。

その時の表情が忘れられない。心の底から「わたしはいいです」という顔をしていた。それに加えて「私はこの部活が紹介されるだけで嬉しいです」と笑顔を見せてくれた。心の中で泣いた。隣にいた先生は微笑んでいた。

ラジオのオンエアから数週間後、私は札幌市内にある「ちえりあホール」にいた。札幌第一高校合唱部の演奏会。「久しぶり~!」という声が会場のいたるところから聞こえてくる。

いざ、開演。ピアノの演奏はあるものの、ホールには「声」という楽器がズラりと並んでいた。この春、卒業した3年生も最後の部活動として参加している。OB・OGが参加できる楽曲もあった。

演奏の合間の挨拶で、先生は「生徒には自分の声を誰かに届けるという体験をしてほしくてこの演奏会を立ち上げました。OBもOGも皆が年に一度、帰って来られる場所になっていたら嬉しいです。」と語ってくれた。私は数回取材しただけなのに勝手に帰る場所が増えたように感じた。

これを読んでいるあなた、学生の合唱を聞く機会はあまりないかもしれないけれど、聞く機会を自分で作ってみてほしい。心の母校が増えるかも。



音の鳴る方へ

「森本さん!高校生になりました!私の学校に来てください!」

この時期はこういうメールが…以下省略。
札幌国際情報高校吹奏楽部にも待ってくれている生徒がいた。ここの部活は凄い。まるで会社です。部活で組織図を見ることは少なくないが、広報や会計など役職が多く、ほぼ全てを生徒が担っている。

いわゆる顧問の先生は「部長」、いわゆる部長は「キャプテン」と呼ばれている。そして、学年関係なく役職があるのも魅力のひとつ。広報担当の生徒がラジオを聞いてくれているリスナーだった。学校の玄関に着くなり、生徒複数名がピンッと立って待っていた。全員から名刺を渡され「本日はよろしくお願いいたします!」と挨拶を受けた。こういう企業に就職したい。

札幌国際情報高校吹奏楽部はダンス&プレイング、通称「ダンプレ」と呼ばれる演奏手法を取り入れている。部員は1・2年生だけで約100名。この部活に入るために入学した生徒、部活動紹介で見たことをきっかけに人生が変わった生徒など百人百色。取材した日は「勝手にシンドバッド」をダンプレで披露してくれた。目の前で音を鳴らし、笑顔を咲かせる100人を見て、日常の負の感情が浄化された。なんて楽しそうに演奏するんだ。最高だぞみんな!

3月末、札幌文化芸術劇場hitaruにいた。ここはライブやコンサートだけではなくオペラ、ミュージカルなどの演劇の舞台にもなる素敵なホールだ。札幌国際情報高校吹奏楽部による定期演奏会は完売。キャパ2,000人のホールを完売にする高校生がいる。それだけで価値がわかる。周りを見渡すと制服を着た中学生も多くいた。未来の部員かもしれない。そんなことを考えながら90分間のダンプレを堪能した。それはもう楽しかった。隣にいた30歳男性スタッフに顔を向けて「ねえ!楽しいぞ!」って言っちゃうくらい。

これを読んでいるあなた、吹奏楽を聞く機会はあまりないかもしれないけれど、聞く機会を自分で作ってみてほしい。「あ、わたしはいいです。」なんて言わないでね!



この記事を書いたモウラー

ゲストモウラー

森本 優

FM北海道アナウンサー/パーソナリティ
1991年6月3日生まれ / 高知県出身
毎週(金)18:00~22:00「IMAREAL」担当。
2021(令和3)年度日本民間放送連盟賞ラジオ生ワイド部門で最優秀賞受賞。
音楽を聴きライブに参加しバスケを見るのが好き。