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【vol.11】玄関バレー部
FM北海道アナウンサー/パーソナリティの森本優が週に1度の学校訪問を通して感じたことや出会った学生のことを紹介。開始当初は「非効率」と言われた学校訪問企画から生まれた出会いにあなたも触れてください。

【vol.11】玄関バレー部

取材されること


江別第一中学校

ある日、生放送中に「森本さん、学校に来てください。」とメールが来た。私が担当しているラジオ番組「IMAREAL」では、週に1度学校に行き、学生を取材しています。6年半で2万人を超える学生と出会ってきました。

コロナ禍が明けて変わったのは「取材されたい」という声が増えたこと。小学生だった子が高校生になり「やっと応募できました!」と校内ラジオ企画に応募してくれたり、大学生が先生になり「顧問」という立場でオファーしてくれることもあります。

今月の「非効率の向こう側」は「取材される / する」についてのお話を。

「ラジオに取材される」ということが、ラジオを聞いている学生たちにとって1つの「やりたいこと」になったのが嬉しい。本当に嬉しい。今回メールをくれた子は小学生の時に出会ってくれて、放送を聞いているうちに「私の部活にも来てほしい!」と思ったそうです。江別第一中学校女子バレー部。初めて行く学校でした。

学校の前に立って声が出た。「うわー綺麗だな」。1年ほど前に改築された新校舎は江別らしいレンガ調。校舎内は新築木造住宅のような清潔感に溢れていた。来校者玄関から入るとすぐに練習している声が聞こえてきた。この学校は体育館が近いのか?そう思いながら案内されたのは「生徒玄関」だった。

靴箱の前にマットを敷き、そこにひざをつく形でレシーブ練習をしていて驚いた。体育館が使えない時間にどこで練習するかは学校によってさまざま。江別第一中学校ではそれが「玄関」だった。簡単なトス練習、レシーブ練習を他の生徒が帰る姿を見ながらやっていた。中には「頑張れー!」と声をかけながら学校を去る生徒も。

自分が学生時代、他の部活を応援する余裕がほとんどなかった。むしろ興味を持っていなかった。今になって後悔していることの1つでもあります。玄関でバレーをしている姿は他の生徒に「バレー部」を認知させていた。「どこの部活よりも明るいのが良いところです!」と部員全員が口を揃えていった。この子たちは見られること、応援されることで自分たちが成長できていることを無自覚でわかっていた。

取材すること


江別第一中学校女子バレーボール部

気づけば2時間が経っていた。ラジオのインタビューではバレーを始めたきっかけや部員への想い、好きなラーメンの話などを聞いた。呼んでくれた子は「こんな夢みたいな日があるんだ」と私にとっての日常を夢だと言ってくれた。

インタビューが終わっていざ体育館に移動。大会目前ということで引退した3年生が練習に参加。練習試合が始まる時の違和感はコートに立つ人数。現役は6人、先輩は3人。え?半分の人数でやるの?そう思いながら試合を眺めていた。現役が負けた。

実は今の2年生は全員が「中学校から始めた生徒」。一方、3年生と1年生は小学生からの経験者が多い。経験値でこれほどはっきり差が出る。そして6対3で勝てないということに悔しさを滲ませる2年生。顔が下に向く、声が出なくなる、先生には怒られる。正直に言うと「勝ちたい」という気持ちを感じなかった。だから私は引き込まれた。この子たちはどうしてバレーボールをやっているのか?

人ぞれぞれ理由はあるだろう。勝ちたいから、楽しいから、悔しいから、嬉しいから。この子はどれが当てはまる?あの子はどこを見ている?そんなことを考えながら首を左右に振り続けた。結果として、私は彼女たちの想いを取材しきれなかった。これまでは「なんとなく見えていた」が、今回は「まだ見えない」。悔しい思いを抱えながら江別を後にした。

インタビューが放送された日、放送後にメールが届いた。バレー部の子たちからだった。ちょうど放送日が大会、ドキドキしながら読み進めた。すると「地区大会5チーム中3位でした!格上相手に勝てたのが嬉しかった!取材してくれてありがとうございました!」という内容だった。彼女たちは勝っていた。

「取材」ってなんだろう。文字通り「材料を取り集めること」。ラジオの取材においては「材料=人の想い」を「集める=いろんな角度で引き出すこと」のような気がする。私が見たのはたった1日のほんの一瞬。10分間のインタビューの濃度をさらに高めようと決意した。できることなら全員に何度も会いたい。取材は1日にしてならず。それを教えてくれた彼女たちの元にまた行ける日が楽しみです。


この記事を書いたモウラー

ゲストモウラー

森本 優

FM北海道アナウンサー/パーソナリティ
1991年6月3日生まれ / 高知県出身
毎週(金)18:00~22:00「IMAREAL」担当。
2021(令和3)年度日本民間放送連盟賞ラジオ生ワイド部門で最優秀賞受賞。
音楽を聴きライブに参加しバスケを見るのが好き。