【vol.31】噂が好きなあなたへ

今月も読んでくれているあなた、初めて読んでくれているあなた、ありがとうございます。ラジオパーソナリティの森本優です。「非効率の向こう側」というタイトルのこの連載はラジオ番組「IMAREAL」を通して出会った 学生や体験して出来事を記しています。今回の「非効率」は少しテイストが違います。

あなたは噂が好きですか？

中学生の頃、「あいつ⚪︎⚪︎さんのこと好きらしいよ」という言葉を何度も聞いた。それが事実かどうかはさておき、13歳から15歳の集団生活において「らしい」という言葉はほぼ100%真実と化す。そして人から人へ広まる速度に驚く。

ウサイン・ボルトが100mを9秒58で走ったが、きっとウワサは世界記録を塗り替えている。しかも変な走り方をする。ゴールについた時には別人になっていることもある困った選手です。

15歳の秋、人生で初めて浮気をされました。私は中学校3年生の春に転校をし、夏頃には１つ年下のバスケットボール部の後輩と付き合っていた。彼女はいわゆるモテる子だったので私はウハウハだった。彼女が言った「みんなにバレると恥ずかしいから、付き合っているのは2人の秘密にしてほしいな…」という言葉も「可愛い！可愛すぎる！」と心のアルバムの表紙に飾っていたくらいだ。

部活を引退して、後輩たちにとって最初の公式戦を応援しに行った。私にとっては“彼女の応援”でもあった。男子の後輩と一緒に、体育館の2階から1階を見下ろす。彼女は4番を背負ってプレーしていた。おいおいおい。可愛くてキャプテンって漫画かよ。誰にも言えない秘密を抱えながら応援に熱中していると、隣にいた後輩がこう言った。「あ、⚪︎⚪︎（私の彼女）の彼氏が見にきてますね〜」

・・・！？

（え？ちょっと待って？俺のこと言った？いや、違うよな・・・）後輩の目線の先をみると、他校のユニフォームを着た男子の集団がいた。私は後輩に「え？彼氏って？」と聞くと「あ、森本さんは知らないですよね。⚪︎⚪︎（私の彼女だと思っている人）は、他校のやつともう1年前から付き合ってる"らしい"ですよ〜」

「嘘でしょ！？いやいやいや！だって・・・」と、付き合っていることを言いかけた私は一旦言葉を飲み込んだ。見ていた試合の結果は覚えていない。家に着いた頃、信じていたのは後輩が「らしい」と言ったその3文字だけだった。

本人に聞くしかない。そう思い、電話した。声のトーンから、その日、試合に勝ったことが分かった。私は単刀直入に後輩からそういう「噂」があることを本人に伝えた。私はそれが「噂」であることを信じていた。しかし、それは「事実」だった。なぜか彼女が泣いた。泣きたいのはこっちだ。泣くなんてずるいじゃないか！何も言えなくなった私は怒りと悲しみと切なさを抱いて寝た。そして数日後、別れた。かわいいだけじゃだめだった。

2025年3月、10年半勤めたFM北海道を退社した。現在は会社を作り、ラジオの仕事を中心にイベントのMCや企画運営などを行っています。会社を辞めるというのは、それはもう大変でした。話す相手、順番、内容、何かを間違えれば誤解を招きかねない。私の知らないところでウワサが走り出す。それを阻止すべく動いたが、さすがは世界のウワサ！見事にやられた。

私が退社するということが正式に決まってから5日後に、社外の人から「聞いたよ！」と連絡が来た。さらに1週間後には、普段連絡を取ることが多くない人からも連絡が来た。ウワサの速さを侮っていた。そして今回の走り方はルールに反するものだった。

「聞いたよ！6月に全部辞めて東京に行く"らしい"ね！びっくりしたよ！」

びっくりしたのはこっちだ。全部辞めないし、東京にも行かない。誰から聞いたか尋ねると「それは守秘義務が」と守秘義務を破った人を守るようなことを言う…厄介だ。非常に厄介。こうなってくると、何を言われていてもおかしくない。表立って言える日が来たら、ちゃんと言葉にして自分で広めよう！そう決めてnoteを書いた。その記事はこちらからどうぞ！

「応援してくれているあなたへ」

SNSでは日々、ウワサが大活躍している。縦横無尽に駆け巡っている。しかも笑顔でだ。想像力の無い人は見出しで判断する。顔も名前も知らない人の"らしい"が真実になる。この記事を読んでいるあなたにだけは、見極める力をもってほしい。それが時間のかかることでもいい。効率の良い嘘よりも非効率な真実を大切に生きてください。

ちなみにこの記事は締切を忘れて更新される日の深夜に慌てて書いた"らしい"です。