
【vol.28】型にはめるな
飲酒運転を撲滅する運動「SDD」
FM北海道でラジオパーソナリティをしています。森本優です。
「非効率」と言われた学校訪問を続けた先に待っていた未来を綴っている連載「非効率の向こう側」、今回の舞台は学校ではなく大阪城ホールです。
FM北海道では飲酒運転撲滅を呼びかける運動「SDDプロジェクト」を展開しています。ラジオを聞いてくれている方は1度は聞いたことがあるでしょう。“SDD=STOP DRUNK DRIVING”ーラジオから呼びかけて飲酒運転をゼロにすることが目的です。
2025年になってからも。北海道はもちろん全国で悲しい事故が起きています。このプロジェクトはFM大阪が発起人となり、全国の系列ラジオ局に展開しているものです。FM北海道でも毎月メッセンジャーと呼ばれるアーティストを起用したり、各番組でパーソナリティが呼びかけています。
「人生楽しく生きたけりゃ飲酒運転の選択なし」
このプロジェクトの1つに「全国子供書道コンクール」があります。飲酒運転撲滅のメッセージを書道で表現してもらうもので、対象は小中学生。運転も飲酒もしない子供たちが大人に向けてメッセージを届けます。私は入社して以来11年間、毎年この企画に参加させてもらっています。
北海道・東北ブロックの審査、表彰式、そして年に1度の大阪城ホールでのライブイベント。全国から数千の作品が届いているにも関わらず、毎年斬新なアイディアや心に刺さる言葉が産まれています。
2024年度の北海道・東北ブロックの最優秀賞に選ばれたのは中学校1年生のさくらさん。彼女が書いたメッセージは「人生楽しく生きたけりゃ飲酒運転の選択なし」でした。「人生楽しく生きたけりゃ」の部分は文字自体が楽しんでいるように跳ねた文字で書いて「選択なし」は他の文字よりも大きく書かれています。最優秀賞を受賞したさくらさんと、2月8日(土)に大阪城ホールのステージに立ちました。
過去の作品は「こちら」からご覧いただけます。今年度の作品もアップされると思いますので是非ご覧ください。
分かったのは「型」が違ったということ。
2025年2月8日(土)大阪、天気は晴れ、気温は0度。北海道から向かったのに、ほとんど気温が同じじゃないか!寒い!寒すぎる!大阪城ホールに向かいながら、関西でも冬を感じた。
会場に到着し、さくらちゃんと対面、緊張が見える表情をしていました。それもそのはず。1万人の前で自分の作品を発表し、最後には全国から集まった子供たちと一緒に1枚の大きな作品を作るからです。
子供たちは前日の夜から交流会や書道パフォーマンスの練習をしていたそうです。同じフロアでは各代表の子供たちがパーソナリティと一緒に練習しています。私もさくらちゃんと練習しようと思い、まずは質問内容を確認しました。そのあと、回答としての言葉を一緒に考え、リハーサル。向かい合って2人で練習していると、さくらちゃんの目から涙が溢れました。
これまでも緊張から涙を流してしまう子供たちは多くいました。練習すれば自信がつく、でも練習しすぎても良くないということで、例年3~4回練習して本番を迎えていました。今回もその想定で、彼女と何気ない話をして涙が止まらるのを待っていましたが、止まりません。
気づけば30分経過…そばで見ていたご両親も心配している様子。さくらちゃんと会話をして分かったのは「型」が違ったということ。彼女は事前に用意した言葉で話すのが苦手だというのだ。聞かれたことをその場で答えるアドリブの方が自分の言葉が出てくるらしい。
私は自分を責めた。過去の事例から「こうした方がきっと良い」と判断していたが、まずはさくらちゃんにどうしたいか聞くべきだった。練習時間は残り30分、僕たちは好きな音楽の話や、学校の話をして終わった。
60分の涙➡1分の笑顔
「LIVE SDD 2025」が始まった。今年もTRFやSTARDUST REVUEなど、豪華アーティストが登場して、音楽を通して飲酒運転撲滅を訴えました。そして私たちの出番。北海道・東北ブロックは5グループの中で最初に紹介されます。
1万人が注目する中、スポットライトがさくらちゃんに当たる。自分が書いた作品について、飲酒運転に対して考えたこと、伝えたい想いを聞かれ、すらすらと答えていた。完璧だった。アドリブとはいうけれど、普段から考えていないと言葉は出てきません。彼女はリハーサルの60分よりも前から考えてきたのだ。
ちなみに彼女は、書道コンクールの参加資格である小学校1年生から作品を送ってくれていて、今回で7回目。念願の最優秀賞だったのだ。誰よりも考えてきたのかもしれない。
スタジオにいるだけでは分からない。大阪城ホールという大きな舞台に行ったから経験できた中学生との61分間は私の思考を変えてくれた。さくらちゃんは発表だけでなく、エンディングでの書道パフォーマンスも笑顔でこなしていました。今度はご両親が涙していました。
飲酒運転がゼロになることは、このイベントの意味がなくなるということ。きっとゼロになったとしても「ゼロであり続けるために…」と、想いは受け継がれていくのだと思う。2025年度もきっとあります。ぜひ、書道コンクール参加してください。そして飲酒運転ゼロに向けて一緒に呼びかけていきましょう。