
【vol.33】リアルチェンソーマン
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会いに / フジファブリック
この記事に出会ってくれてありがとうございます。
FM北海道でラジオパーソナリティをしている森本優です。よく「もっちょり」と呼ばれています。
この連載「非効率の向こう側」は現在担当している番組「IMAREAL」を8年前に立ち上げた際に、週に1度学校訪問をするという話をしたとき、「非効率」と言われたことが本当に非効率だったのかを検証するための記事です・・・あれ?そうでしたっけ?(笑)
とにかくあの時の言葉は今でも忘れられず、番組開始から9年目を迎えた今も変わらず、学校に行くことに意味があると信じています。都度、番組宛に学校訪問取材の依頼が届きます。生徒自身から来ることもあれば先生から来ることもあります。ある日、届いたメールの主は「学院長」でした。
北海道立 北の森づくり専門学院
あなたは知っていますか?恥ずかしながら私は知りませんでした。
旭川市にキャンパスがあり、「北海道立」という名の通り「北海道」が運営している学校です。簡単にいうと「森林・林業・木材産業」を学ぶための学校。専門的な知識は学部講師に依頼し、いわゆる教職員は「北海道の職員」の方が担っています。もちろん「学院長」もです。
今回メールをくれた学院長は「IMAREAL」の熱心なリスナーで、学校訪問のコーナーを聴いていて、旭川にも来てほしいという思いをもってくださったそう。その熱い思いを長文のラブレターにして送ってくれました。行けるところには行く、ということを信条にしているので、すぐに返事をして行くことに。
札幌からJRで1時間とすこし。北海道に住んでいると、その時間は大して長くは感じない。キャンパスに到着すると、自然に囲まれた敷地内に木造の美しい建物が目に入った。外にいても中にいても、なんて気持ちが良い場所なんだろう。建物の外には大きな丸太が積まれていた。
専門学院という名の通り、高校卒業後の生徒もいれば、一度社会に出た後に林業に興味をもち入学してきた人もいる。今回は取材で3名の生徒に話を聞いた。
KICK BACK / 米津玄師
「森本さんに会わせたい生徒がいるんです!」とニコニコしながら伝えてくれた学院長。目の前には眼鏡をかけた男子生徒が緊張の面持ちで座っています。彼は中学校・高校とお兄さんと一緒に「IMAREAL」を聞いてくれていたそうで、私に会えるのを楽しみにしてくれていたらしい。旭川出身ではないが、林業に興味を持ちこの学校に進学。インタビューの中では「林業って危ないとか、怖いというイメージがあるかもしれないけれど、ちゃんと知識を持って仕事をすれば大丈夫。自然が好きな人もぜひ学びにきてほしい。」と伝えてくれました。そんな彼と同じ部活に入っていると話してくれた生徒がいる。口から出た部活は「チェンソー部」!
まさかチェンソーを武器に戦う!なんてことはあるはずがない。正解は「チェンソーの技術を向上させる目的で作られた部活」。全国で林業を学べる学校から、その技術力を競うために生徒が集まる大会があるそうです。実演として見せてもらったのは学校の外、敷地内で丸太を切る工程。数十メートル先に目印があり、丸太を切って、倒れた向きがその目印とどれほど一致しているかを競うもの。
切れ込みを入れる。倒れる角度を調整する。数ミリで結果が大きく変わるとても繊細な競技だった。初めて知ったのは「チェンソーを使う事は周りに周知させないといけない」ということ。そりゃそうだ。使い方を間違えれば危ないものになってしまう。だからこそ、知識が必要、ということだ。競技の前後には大きな声と笛を鳴らして、今から「大きな音が出る」「チェンソーを使う」ことを知らせ、使用する人から遠ざける。こうした細かいルールが、実際に森に入って作業することへの心構えにもなっているのでしょう。初めて見たチェンソー競技は迫力以上に人間の繊細さを感じるものだった。
インタビューした3人目はこれから「フィンランドに研修に行く」という生徒でした。
これもこの学校の魅力のひとつ。世界的に見るとフィンランドは林業の最先端で、技術は日本より何歩も先に進んでいるらしい。最先端の地で学ぶ機会をもらえるというのは、とてもすごいことだ。最近、つくづく環境って大事だなと考えさせられる。
どれだけの技術をもっていても、それを活かせる環境にいなければ発揮出来ないし、反対にそれほどの能力ではなかったとしても、一流の環境に身を置けば自然と成長できる。一流の環境には一流がいるからだ。自ら「環境を選ぶ」ことは簡単ではないが、実は一番大切なことだと思う。そういった意味でも、この学校に通うことが今の北海道・林業を支える人材になる近道かもしれない。「非効率」と言われた学校訪問で、私は効率的に学ぶ生徒に出会ったのだ。
余談:米津玄師の「KICK BACK」という曲はアニメ「チェンソーマン」の主題歌。
チェンソーにおける「キックバック」というのは「チェーンソーの刃が対象物に接触した際に、突然、本体が跳ね返る非常に危険な現象」のこと。これを踏まえて曲を聞いてみると聞こえ方が変わるかもしれません!